プレイリスト『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』上巻
村上春樹さんの小説『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』の、音楽プレイリストです。
小説に出てきた音楽家の名前、あるいは曲を、出てきた順番でまとめたプレイリストです。音楽家の名前だけで曲名が出てきていない場合は、私の好みの曲(プレイリストの流れにも合っていると思える曲)を選んでいます。音楽家名が複数回登場する場合は、入れたり入れなかったりしています。(プレイリストの流れを見ながらの判断。)
小説を読んでいても、普通の意味では、音楽は聴こえない。
これは、当然のことです。小説の文字は見るもので、実際の音楽が聴こえるわけではない。そこで、小説に出てくる音楽を実際に聴くことによって、1つ次元を増やして、小説世界を楽しむことができる・・・ということが、このプレイリストの良いところです。
たとえば、小説の巻頭詩?の“THE END OF THE WORLD”は、この小説全体のムードを決めているような音楽です。文字で見る詩自体も素晴らしいので、世界観をしっかり感じることはできますが、音楽で聴いてみると、また別の角度から、深みを感じることができます。
また、「ダニー・ボーイ」という音楽、メロディーが、この小説で重要な位置を占めていますが、この「ダニー・ボーイ」のメロディーに関しては、これを知っていると知らないとでは、感じかたが変わってくるだろうと思います。つまり、「ダニー・ボーイ」は、小説には音がない、ということを小説的にも表している仕掛けだと言えます。ヴィトゲンシュタイン的に言うと、「小説の中では、音楽は常に沈黙している」、という言い方もできるでしょう。
・・・それでは、音楽プレイリストを上巻と下巻に分けて、まとめましたので、聴いていきましょう。長さに関しては、気にしないことにしました。一気に聴くのは難しい長さになっていますが、小説でも長編を一気に最後まで読むのは難しいので、そういう感じでいきます。
『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』
上巻
引用ページ数は、新潮文庫版(旧表紙)
p.10
太陽はなぜ今も輝きつづけるのか
鳥たちはなぜ唄いつづけるのか
彼らは知らないのだろうか
世界がもう終ってしまったことを
“THE END OF THE WORLD”
p.14
私はためしに『ダニー・ボーイ』を吹いてみたが、肺炎をこじらせた犬のため息のような音しか出てこなかった。
p.142
長い沈黙がつづいた。しかしそれが音抜きのせいでないことは、閉館を知らせる『アニー・ローリー』のメロディーが図書館内で流れていることでわかった。彼女が黙っているだけなのだ。
p.152
それからベッドに寝転んで、ロベール・カサドシュがモーツァルトのコンツェルトを弾いた古いレコードを聴いた。モーツァルトの音楽は古い録音で聴いたほうがよく心になじむような気がする。でももちろんそういうのも偏見かもしれない。
結局私は二十三番と二十四番のピアノ・コンツェルトを全部聴いてしまった。
p.161
彼女が全裸でベッドを出て、キッチンでウォッカ・トニックを作っているあいだに、私は『ティーチ・ミー・トゥナイト』の入ったジョニー・マティスのレコードをプレイヤーに載せ、ベッドに戻って小さな声で合唱した。私と私のやわらかなペニスとジョニー・マティスと。
「空は大きな黒板で――(ザ・スカイ・ザ・ブラックボード)」と唄っていると、彼女が二杯の飲み物を一角獣についての本の上にトレイがわりにのせて戻ってきた。我々はジョニー・マティスを聴きながら濃いウォッカ・トニックをちびちびと飲んだ。
P.181
明日という日がどれほどのトラブルに充ちたものであろうと――まず間違いなくそうだろう――私は地球がマイケル・ジャクソンみたいにくるりと一回転するくらいの時間はぐっすりと眠りたかった。
p.304
「あなたアルト・サックス吹ける?」と彼女が私に訊ねた。
「吹けない」と私は言った。
「チャーリ・パーカーのレコード持ってる?」
「持ってると思うけど、今はとても探せる状態じゃないし、それにステレオの装置も壊されちゃったから、いずれにせよ聴けないよ」
「何か楽器はできる?」
「何もできない」と私は言った。
「ちょっと体に触っていい?」と娘は言った。
p.320
信号が青にかわると、私の車の前のトラックがもたもたしているあいだに、白いスカイラインは派手な排気音を立ててカー・ステレオのデュラン・デュランとともに私の視野から消えてしまった。
p.348
梯子を下りながら、私はずっとスカイラインに乗った男女とデュラン・デュランの音楽のことを考えていた。
p.376
「唄いなさいよ。いいから」
しかたなく私は『ペチカ』を唄った。
雪の降る夜は 楽しいペチカ
ペチカ燃えろよ お話しましょ
昔々よ
燃えろよペチカ
p.377
「もう一曲唄って」と娘が催促した。
それで私は『ホワイト・クリスマス』を唄った。
p.378(登場人物のオリジナルの唄なので、プレイリストにはない。)
「『自転車の唄』でいいかしら?」
p.380
「ねえ、ピンク色のサングラスってあると思う?」
「エルトン・ジョン」がいつかかけていたような気がするな」
p.382
彼女が『自転車の唄』を唄い終えた少しあとで、我々はどうやら崖をのぼりきったらしく、広々とした台地のようなところに出た。
p.390
サイケデリックなロック
p.390
それからその場面にステッペンウルフの『ボーン・トゥー・ビー・ワイルド』をかさねてみた。しかし『ボーン・トゥー・ビー・ワイルド』はいつのまにかマービン・ゲイの『悲しいうわさ』に変わってしまっていた。たぶんイントロダクションが似ているせいだ。
ここから先は
¥ 500
おもしろかったら100円ちょーだい!