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LIBRARIAN|嶋田青磁の小部屋

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モーヴ・アブサン・ブック・クラブの司書、嶋田青磁の小部屋。詩人・フランス文学修士課程在籍。専門は19世紀フランス詩。学部在学中にピエール・ルイス『ビリティスの歌』に出会い、詩の魅…
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#モーヴ街

monomerone|聖夜にまたたく真珠の星

Text嶋田青磁  まるで夢見るように閉じられた天使の瞳。  まっしろな翼は、道しるべとなる祝福星をそっといだいています。  モーヴ街のクリスマスに、monomeroneさまによるスペシャルなペンダントブローチが、初雪のように舞い降りました。聖なる日の到来を、そのやさしいベルの音で知らせながら。  作家さま自身によって撮影された作品写真は、まるで異国のアンティークショップの品物の陳列棚に、小さな天使がペンダントをそっと紛れ込ませたかのよう。身につければ、いつかの、誰かの

Belle des Poupee|菫の香る花園にて

Text|嶋田青磁  シックな菫色に、繊細なレースとフリル。あしらわれたヴィオレの花。  甘やかな少女の夢をそのままフィギュール——かたどったかのようなボンネットが、モーヴ街のクリスマスにあわせてBelle des Poupeeさまよりお披露目されました。  作家さまご自身による麗しい作品写真からは、パウダリーな菫の香りが漂い出でてくるかのようです。少女はそんな菫香る花園で、ボンネットのかげから花々を愛で、きっと永遠なる美しい夢を見るのでしょう……  わたしたちは作品から

SEIJI|書を捨てずに町へ出よう《1》|四国・四谷シモンドール巡礼記

 皆様は、四谷シモンというドール作家をご存じだろうか。  おそらく、現在日本にあるドール文化、球体関節人形というジャンルがここまで大きくなったのは、彼の創作活動のおかげであると思う。20世紀には寺山修司や唐十郎などの演劇と結びつき(実際、四谷シモン氏自身も女形として芝居に出演されていた)、どことなくアングラな雰囲気を漂わせていた「人形」ジャンルも、今では数々の大手メーカーが「キャストドール」として製品化し、専門のショップがいくつもあるなど、だいぶ明るい印象にはなった。いわば四

Du Vert au Violet|架空のアブサン酒〜Paper Sachetシリーズ《モダンラベル》

TextKIRI to RIBBON  「架空のアブサン酒」とは、リキュールに様々な薬草が調合されているように、「文学・アート・モードを調合したコンセプト作品」のこと。アブサンの頽廃世界を様々な手法で表現してゆきます。  本記事でご紹介するのは、の「モダンラベル」バージョン3種。  先にご紹介した、画家・金田アツ子さまのロマンティックかつ硬派な植物画を配した同シリーズ(下写真)2種と共に、テイストの違いを楽しみながら、ご覧頂けましたら幸いです。  オリジナルのペーパー

Du Vert au Violet|架空のアブサン酒〜Paper Sachetシリーズ《植物画ラベル》

TextKIRI to RIBBON  「架空のアブサン酒」とは、リキュールに様々な薬草が調合されているように、「文学・アート・モードを調合したコンセプト作品」のこと。本イベントでは昨日までにと《小壜シリーズ》をご紹介してきました。 上写真架空のアブサン酒 上写真架空のアブサン酒 *  本日ご紹介するのは、画家・金田アツ子さまの香り高い植物画がラベルとカードに配された《架空のアブサン酒〜Paper Sachetシリーズ》全2種。オリジナルのペーパーサシェにポプリが封

SEIJI|花を食べてこの世を生きたい

Text|嶋田青磁  先日、霧とリボン・オンラインギャラリーで行われたイラストレーターruff様の個展は、巻頭詩や作品紹介エッセイを書かせていただいたこともあり、わたしにとって特別な体験の一つになった。  多くのすばらしいイラストがお披露目されるなか、実をいうとわたしは、ある作品にすっかり心を奪われてしまった。それは、少年がナイフとフォークでもって花を食すさまを描いた絵であった。  花を食べる、ということは——  本来、生きるための栄養を摂る行為であるはずの〈食事〉とは

ルネ・ヴィヴィアン|死の虹

TextSeiji Shimada 底本|Renée Vivien, Du Vert au Violet (Paris : Alphonse Lemerre, 1903) * 上写真|佐分利史子カリグラフィ作品 *

ポール・ヴァレリー|愛情の森

TextSeiji Shimada ポール・ヴァレリー|Paul Valéry(1871-1945) * ポール・ヴァレリー ——ナルシスの見つめる詩——  「風立ちぬ、いざ生きめやも」——宮崎駿の映画『風立ちぬ』で引用された詩句、これはポール・ヴァレリーの詩『海辺の墓地』に書かれたものである。ヴァレリーといえば、わたしたちには詩人というよりも、残された厖大なノート(カイエ)や『精神の危機』などの著作から、「思考する人」というイメージが強いかもしれない。けれど、彼に

鳩山郁子|『羽ばたき Ein Marchen』—生への飛翔、あるいは落下—

Text: 嶋田青磁  羽ばたく——。  それは、人間にとって不可能な行為である。なぜなら、人間には“翼”が無いのだから。思い浮かべてみると、たしかに鳥や虫、羽ばたくものたちはみな、飛翔するための羽(翅)としなやかな筋肉が生れながらにそなわっている。  けれどもし、人間に羽ばたくことが可能であるとしたら?  鳩山郁子先生の『羽ばたき』はその可能性を、堀辰雄による原作から掬い取り、きらめく結晶を抽出するようにして、“漫画”という魔法でわたしたちに提示しているように思われる。

SEIJI|軽井沢滞在記《2》―堀辰雄のかげを求めて―

 浅間山の雄大な姿を臨む塩沢湖畔、軽井沢高原文庫内に、一件の山荘がひっそりと佇んでいました。1985年に旧軽井沢から移築された、堀辰雄の1412別荘です。  杉皮で覆われた素朴な造りの山荘は、ともすれば瞬く間に再び自然に飲み込まれてしまいそうな佇まいでした。一歩足を踏み入れると、テラスの板張りはまるで、生きた湿潤な木が横たわっているかのようです。このような建築は、「幸福の谷」で今も現役で使われている同志社大シーモアハウスにも見られたのですが、当時の別荘建築として主流だったの

SEIJI|軽井沢滞在記《1》―堀辰雄のかげを求めて―

 切れかけの蛍光灯のような、鈍く発光した空の下、わたしは苔むした石畳をじりじりと歩んでいました。降ったり止んだりの絶え間ない繰り返しで湿った石は、非常に滑りやすいのです。道の両脇には生い茂った木々が、わたしを覗き込むようにじっと並んでいます。 (軽井沢とはこんなにも陰鬱なところだっただろうか?) わたしは汗ばんだマスクをむしり取るように外しながら――自分以外に音を立てるものといえば時折耳元でうなる虫だけです――、坂道を上ってゆきました。そういえば、もう随分と青空の反映を見

マルスリーヌ・デボルド=ヴァルモール|サアディの薔薇

TestSeiji Shimada マルスリーヌ・デボルド=ヴァルモール| Marceline Valmore(1786-1859)  ヴァルモールはジョルジュ・サンドの誕生からさかのぼること18年前、フランス北部の町ドゥエで生まれた。彼女は女優であり、同時に19世紀ロマン主義文学を代表する女性詩人だった。同時代のヴィクトル・ユゴーや批評家サント=ブーヴに高く評価されていたが、ロマン主義の流行が去るとともにその名は忘れ去られることとなってしまう。  彼女の父親は紋章絵師

SEIJI|ご挨拶―青萌え立つ季節に―

嶋田青磁 Seiji Shimada|詩人・フランス文学修士課程在籍 →note 学部在学中にピエール・ルイス『ビリティスの歌』に出会い、詩の魅力に憑かれる。19世紀末の頽廃・優美さを求め、研究の傍ら、noteを中心に詩作活動中。  初めまして、嶋田青磁と申します。  オンライン上に突如現れた幻想のモーヴ街、その3番地であるMAUVE ABSINTHE BOOK CLUBで司書を務めております。訪れる皆様にとって知的な探求のきっかけとなるべく、フランス文学を中心に、詩の新訳