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【読書記録】2024年8月

 残暑の気だるさに身を任せていたところ、9月も半ばとなっていた。大反省。
 さて、8月の読了冊数は33冊。お盆が1週間お休みだったこともあり、読書時間を多く確保することができた。それらの中から、特に気に入ったものを5冊紹介していこうと思う。



『表現を仕事にするということ』 小林賢太郎

 劇作家であり演出家でもある小林賢太郎さんが、表現を仕事にする上で大切にしていることをまとめた本。鉛筆書きのレタリングのような表紙に目を奪われ、つい購入してしまったのだが、これがなかなか面白かった。一文一文自らに言い聞かせているような文体から、小林さんの優しさと謙虚さが伝わってくる。

知名度よりも実力を上げることに夢中になるべきです。質の良い表現ができていれば、鼻がきく人にはちゃんと気づいてもらえます。

『表現を仕事にするということ』 小林賢太郎

 日々仕事をしていると、「一足飛びに認められたい!」なんて思っちゃったりもするのだが、小林さんの言葉にしっかりとお灸を据えられた気分だ。地道にコツコツ頑張ろう……。

『訂正する力』 東浩紀

 間違いを認め、謝る。そして訂正する。一見あたり前に思えることができない大人は意外と多い。本書は、そんな「間違いを訂正する力」について書いた新書である。2023年の新書大賞にランクインしていた、間違いなしの一冊だ。

(…)訂正しあう関係は、ある程度親密な関係でしか成り立ちません。訂正のためには、「余剰の情報*」が必要だし、考える時間が必要だし、試行錯誤を許しあう信頼関係が必要だからです。

*余剰の情報=その人の属性を超えた情報   『訂正する力』 東浩紀

 私はどうだろう。自らの間違いを認め、訂正することができているだろうか。私は記憶力がポンコツすぎるので、大体「自分が間違っている」という認識で生きるようにしているのだが、これから歳を取っても今みたいに気軽に間違いを認め訂正し続けられるだろうか。
 今だって、正直、痛いところを突かれたくない相手はいる。そういう相手とは、総じて「信頼関係」が構築できていない。東さんがおっしゃる通り、ある程度親密な関係を構築することは、「善く生きる」ためには不可欠なのかもしれない。

『古くてあたらしい仕事』 島田潤一郎

 私が大好きな夏葉社*の島田潤一郎さんが書かれたエッセイ。他の著作である『あしたから出版社』(ちくま文庫)も拝読しているが、どの切り口から描かれていても島田さんの人生は興味深い。

一冊の本を家に持ち帰ると、その本がしばらく、ぼくの日々の明かりとなった。

『古くてあたらしい仕事』 島田潤一郎

 純文学作家を目指し、27歳まで無職。一念発起して就職するも上手くいかず、33歳で出版社を設立する。
 このように島田さんの人生をまとめると、少し無鉄砲な人間だと思われるかもしれない。しかし島田さんの実際の仕事は、地に足の付いた戦略で成り立っている。例えば「会社を応援してくれる本屋さんを全国に100店舗開拓し、それらの店を重点的に営業していく」というのが夏葉社の営業スタイルなのだが、この「100」という数字は、島田さんが教科書会社で営業の仕事をやっていた時に、実際に受け持っていた高校の数だという。島田さんが具体的に想像できる数字というわけだ。

なにをいいたいかというと、うまくいえないけど、つらいこともたくさんあるけど、どうか、がんばって。
ぼくもがんばるから、きみもがんばって。

『古くてあたらしい仕事』 島田潤一郎

色んな困難を乗り越えてきた島田さんだからこそ贈れる、重みのあるエールである。

*夏葉社とは「本をつくり、とどける」ことに真摯に向き合い続ける「ひとり出版社(=従業員1人の出版社)」である。知らない方はぜひ覚えて帰ってほしい。本の内容もだが、装丁もこだわり抜かれていて、どの本も惚れ惚れとしてしまう……!

『男の子になりたかった女の子になりたかった女の子』 松田青子

 表紙を見た瞬間、「何だ、このタイトル!?」となった一冊。女性を主人公とした、11のストーリーが収められた短編集である。

嫌だったことに、本当に嫌だったことに気がついたのは、だいぶ時が過ぎてから、大人になってからだった。

『許さない日』(『男の子になりたかった女の子になりたかった女の子』 松田青子より)

 これは『許さない日』に出てくる一節だ。この短編は、ブルマを忌々しく切り刻むシーンから始まる。だいぶ月日が経ってから「あの時のアレ、嫌だったな……」と思うことは、誰しも経験があると思う。この『許さない日』はそんな感情にスポットライトを当てている。
 また「クイズです。この中にいくつ「物語」が隠れているでしょう?」から始まる、『物語』の衝撃もすごい。いわゆる「マチズモ」な展開を見せる物語に対して、登場人物たちがメタ視点から「NO!」を突きつけていく。狼狽える「物語」を見るのは、本当に愉快である。
 世界は残念ながらたくさんの悪しき文化で溢れている。それをタブーとして見ないのではなく、一つずつ可視化して問題としていくことが、大人である私たちが未来の世代に対してできることなのかもしれない。そんなことを考えるいい機会になった。

『狐花』 京極夏彦

 あの京極夏彦先生が歌舞伎の脚本に挑戦するという。タイトルは『狐花』。チケット発売当日に予約して、原作も読んだ上で鑑賞してきた。
 歌舞伎を見るのはこれが初めて……ではなく、高校生だったか大学生だったかの時に、祖母と一緒に見に行っている。古文が苦手な私は内容が理解できず、あまり面白いと思えなかったことしか記憶にない。しかし、今回は事前に原作を読んでいる。それも大好きな京極夏彦先生が脚本。であれば、面白くないはずがなかった。
 舞台は江戸。死んだはずの男が目撃されるという騒動が起き、"憑き物落とし"中禪寺洲齋がその解決に駆り出されるという展開。出演が、松本幸四郎、中村七之助、勘九郎。歌舞伎を知らない私でも、名前くらいは知っているオールスターぶり。物語を事前に理解していたからか、役者の所作や音楽、服装にも目を向けることができ、満足のいく観劇となった。「京極夏彦に、脚本させようぜ〜!」って最初に言った命知らずな方には、是非金一封をあげてください。そして今回の興行に味をしめて、毎年やってくださっても……!
 読書記録とは少しずれてしまうかもしれないけど、読書にまつわるとても良い経験をさせていただいた。


というわけで、今回はここまで。
9月も面白い本を読んでますので、気長に待ってていてください。

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