彼氏が死んだ
彼氏が死んだ。居眠りのトラックに潰されたらしい。私の知らないところで、誰の目にも止まらずあっけなく死んだ。
彼氏が死んだ。LINEを開けば、「大丈夫?」の陳列棚がこっちを見る。そこまで私の「大丈夫」の言葉をぶんどって、いい人ヅラして表彰台に上がりたいのかと、ちょっと理不尽で、でも心の底からのため息をつく。その後彼らの思い通りに「大丈夫」を返したり、返さなかったり。
彼氏が死んだ。葬式に行った。何故か涙は出なかった…わけもなく、普通に泣いた。だって彼はもう死んだ。もう二度と会えないんだから悲しくないわけない。
彼氏が死んだ。彼氏は火葬されたんだろうな。たかが高校生の、家族に会ったこともない恋人が火葬に立ち会えることはなくて、たくさんの同級生と同じように葬儀場で手を合わせてそのまま帰った。彼が喜びそうな、雲がモクモク浮いた晴れの日だった。
彼氏が死んだ。最期に交わした言葉はなんだっけ。実際そんなの覚えてない。そういえば、駅前のあのカフェ、行きたいねって言ってたな。
彼氏が死んだ。死んだからと言って、世界が終わる訳でもない。私の心に雨が降って、ちょっと教室の空気が重くなって、でも1ヶ月もすればみんなまた笑顔を見せて、数ヶ月すれば私の心の雨も止む。忘れる訳じゃないけど、残念ながら止まない雨はない。異常な程に目立ちたがりの彼は、ちょっとガッカリするのかも。ごめんね。忘れないように、私の中で笑っていて。
彼氏は死んだ。私はまた生きていく。