無花果
都会の人は知らないかもしれないけど無花果って裏年と表年があるんです。
たくさん実をつける年が表、その翌年は裏年でまあ普通に実るという感じで、一年おきに表と裏を繰り返す。
学説的に本当かどうかは分からない。例えば風が吹けば桶屋が儲かる的な、なんかそんなものかもしれないけど、わたしの田舎の方ではそう言われていて。
ちなみにたけのこも。
あれはまだ東京に住んでいた頃、実家に帰省していた夏。
祖母の家におじゃましたのはかなり久しぶりだった。私が東京にいる間に祖母は亡くなって、お葬式にも出られなかった。
海沿いから少し登ったところにあるその家は、母の兄であるおじとおばが住んでいる。
窓から見えるのは海だけ。子どもの頃には夏になると遊びに来て海水浴をするのが楽しみだったなと思い出す。
玄関から出てすぐのところに、昔から大きな無花果の木が一本だけあった。無花果が大好物だったわたしは小さい頃、手も口もかゆくなるくらい食べたもんだった。大人になると、特に都会では高くてあまり買えくなっていたけど。
そう思いながら無花果を眺めていたら、おじが「持って帰るか?」と声をかけてくれた。ことしは表年だって言ってた。
喜んでたくさん持ち帰った。手と口がかゆくならないようにむいて食べ、ぬるくてあまいのがたまらなかった。
久しぶりにおじともゆっくり話してその日は帰った。
翌年の1月。母から連絡がありおじが亡くなったことを知った。ガンだったらしい。そういえば、ずいぶんと痩せたなと思っていた。そうか、そういうことだったのか。
先日、無花果のかき氷を食べた。あれから何年たったかも数えられない。でもことしはやたら無花果を見かける気がするんだよ。
きっとことしは表だね。
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