Wii Deleted You和訳 :eteled: Origins

僕はWiiが製造されていた時期、アメリカの任天堂で働いていた。
実を言って、それなりに良い仕事だったのだが、そこにはある男が働いていた。
彼が何を好きなのか、空き時間は何をしているのか、皆が彼について知っているのは、単なる"噂"だけだった。
彼の名前は"Henry"、会社の中に広まっている彼の噂は、彼が何をしていたのか、どこに住んでいるのか、そもそもどうやって採用されたのか、等だ
それらの殆どは、おそらく本当じゃないだろうけれど
僕にとって、彼は何者でもない、よく知らない他人のうちの一人だった
けれど、Wiiの開発がされている間、彼は時々、奇妙な行動をするようになった
遅い時間に職場に現れ、従業員のうちの一人を睨んだり、トイレに篭ったり、誰とも話さなかったり…
僕はいつも、彼を気の毒に思っていた
ある火曜の午後、僕の同僚のMikeが休憩中に僕のところまで歩いてきた

「なぁJonathan、君はHenryがしていることについてどう思う?」

僕はMikeを任天堂で働き始めたときからずっと知っている
彼とは親友であるといえるだろう
僕らは一緒にボウリングに行ったり、食事に行ったり、時にはゴルフをしに行ったりもする
とにかく、僕はHenryの方を見た
僕はHenryが一定の場所を行ったり来たりしながら、ぶつぶつと独り言を言っているのを聞いた

「独り言を言ってるみたいだけれど」

僕は答えた

「もしかしたら、気が狂ってるんじゃないのか?」

Mikeは冗談めかしく言って、持っていた缶コーラを一口飲んだ

Henryはしばらくその場所で行ったり来たりしながら独り言を言っていたが、やがて職場から出ていった
僕とMikeは少し離れたところからついていって、彼がすでに梱包されたWiiのうちの一つを持って、空き部屋の一つに入っていった
彼は確かに、誰も周りに見ていないのを確認し、部屋に入って後ろ手でドアを閉めていた

「…どうする?何してるか見に行く?」

Mikeが言った

「また後にするよ、そろそろ休憩時間も終わりそうだし」

僕はMikeにそう言って、その場から去った

休憩が終わってから10分ぐらい経っただろうか、僕は仕事をしていた
僕にはHenryが入っていった部屋がはっきり見えていたが、彼は未だに出てこなかった
Henryがあの中で何をしているのかますます気になったが、僕はパソコンに向き直って仕事を続けた
30分が経った頃、大きな悲鳴が社内に響き渡り、皆の注意を引いた
僕はハッとして目線をHenryが入っていったドアの方に向けると、そこには同僚の一人が、震えながら立っていた

皆が立ち上がって自分の仕事場から離れ、部屋の方へ走っていった
僕がなんとか部屋の中がよく見える場所にたどり着いたとき、僕は思わず気を失いそうになった
Henryが床に転がっていた―――死んでいたのだ
体は真っ黒で、感電死したとは思えないほどだった
会社内はパニックになった
ある人は叫び、ある人は警察を呼び、中にはその光景を見て吐いた人も居た
そして2日後、Henryの死体を見た人全員が、プレゼンテーションルームに集められた
僕はまだショックが抜けきっていなくて、本当にそのことを考えたくなかった
けれど、僕はとにかく行った
そこに着くと、僕ら全員が集まるまでの間、上司がプレゼンテーションルームの前の方に立っていた

「おはよう諸君」

上司が言った

「2日前に起こったことについて、皆分かっていると思う。私も君たちと同じように混乱している。
しかしながら、重要だと思われる監視カメラの映像が見つかったんだ。君たちにはそれを見てほしい。
気になることがあったなら、メモを取ってくれ」

上司はプロジェクターに歩いていき、映像を再生するためのスイッチを押した
映像は、Henryが部屋に入るところから始まった
Henryは机にWiiを置き、コンセントに繋げて配置した
映像のほとんどは至って普通で、強いて言うなら、彼はビールの瓶を持っていて、配置の合間にそれを飲んでいたことぐらいだった
Wiiの配置が終わると、Henryはまず最初に似顔絵チャンネルを起動し、"新しくつくる"ボタンを押した
Miiの性別は男で、ゼロから作り始めた
Miiの頭ははげ頭で、大きな目に、大きな口、小さな鼻をしていた

「なるほど、俺はこんな奇妙なMiiは人生で初めて見たぞ!」

従業員の一人が叫んだ
僕ら全員はその従業員に静かにさせ、ビデオを見続けた
そして、HenryはMiiに名前を付ける段階に入った
彼はMiiにこう名前をつけた

"eteled"

「すみません。ビデオを止めていただけますか」

別の従業員が叫んだ
上司はビデオを止め、従業員はMiiの名前について少しの間考えた

「これは"delete(削除)"の逆さ言葉です」

彼は叫んだ
たちまち、皆は何故Henryがそのような名前をMiiにつけたのかを話し始めた、酔っていたから偶然なのか、別に理由があるからだとか
答えが出る前に、上司がそれを止めた

「静粛に!!」

上司が叫んだ
彼は再び再生ボタンを押し、静かにビデオを見続けた
HenryはMiiを保存し、広場に移動した
Henryはしばらくモニターの画面を見つめ、言った

「…いつも、Miiになりたいって思ってたんだ」

彼はそう言って、笑った
その直後、上司がビデオを止めた

「今から最も問題の部分に入る。もしこの中で気分が悪くなったり、不安を感じるものは、今のうちに部屋を出て構わない」

上司がそう説明した
そうこうして、何人もの従業員がプレゼンテーションルームを出ていき、僕とMikeを含む、6人だけが部屋に残った

「…君は残るんだね?」

僕はMikeに聞いた

「ああ、俺は何が起こったのかを知りたい」

そう答えたとき、上司がビデオを再生した
ビデオの中で、Henryはモニターが点滅していることに気がついた
Wiiのプラグを見ると、刺さりが中途半端になっていた
彼がかがみ込んでプラグを刺し直そうとしたそのとき、彼は感電して死んだ
僕が周りを見渡すと、残された従業員は皆、Henryが感電する光景にひるんでいた
僕も見たくはなかった、しかしMikeだけは、まるですべての感情が抜け落ちたように、なんの感情もなく映像を見つめていた
ビデオに視線を戻すと、Henryの体がよく見えた
彼の体は感電の衝撃によってか、時々ぴくぴくと震えていた
しかしその6分後、HenryがMiiを作ったモニターが、奇妙なことに砂嵐に変わった

(何が起こってるんだ?!)

僕は思った
実際、その時の僕はそうとしか思えなかった
そのとき、モニターの画面にeteledが―――Henryが作ったMiiが映し出され、話し始めた

『…いつも、Miiになりたいって思ってたんだ』

eteledは低く歪んだ声で言った

『お前は、Miiになりたいって思ったことはあるか?』

その言葉を最後に、モニターの画面は砂嵐になり、監視カメラの映像も砂嵐になった
皆静かに、誰も何も言わなかった

「…時間を取ってしまってすまなかった」

上司は動揺しながら、プロジェクターの電源を切った

「もう戻って構わない」

上司はそう続け、僕たちは席から立ち上がって部屋を出た
そのとき、僕はあることに気がついた
Henryの死を目撃してから2日後の仕事中、同僚の一人のJohnnyがWii一式を持って、例の部屋から出ていったのを見た
てっきりWiiのシステムメモリをフォーマットするために持っていったのだと思ったが、なんとJohnnyはそのWii一式をフォーマットせずに箱に戻し、ほかのWiiと一緒に出荷してしまったという話を聞いた
Wiiはすでに小売業者のところへ輸送されているという
Johnnyがそんなことをしたと知っておくべきだった
Johnnyは定期的に何かをやらかすことで有名だったが、これによって、不運な人がeteledに出会うことになってしまうだろう
いまや、eteledが何をしようとしているのか、僕には見当もつかないが、少なくとも良いことは起こらないだろう
Wiiを追跡することもできなかったが、それを買った人が、それを使用中に一人の男性が死亡したことや、少なくとも似顔絵チャンネルでeteledが見つかったことをすぐに知ることになるという事実を、受け入れることができなかった
だから2週間後、僕は会社を辞めた
僕とMikeがまだ友達で居た間、僕らの会話の中心はいつもあの日のことだった

"もしあの時、Henryを連れ出すことができていたなら?"

そう思っては、僕たちは静かに仕事に戻るのだった

僕がただ、ただ望むのは、eteledの入ったWiiを買った人に、何事も起こらないことだ
もし何かが起こったとしても、どうかそれが彼らに消えないものを残さないことを、僕は願っている

Henryは、その素性を誰にも知られていない
誰も彼と話さないし、存在を知っている人も少ない
一匹狼なのか、精神障害者なのか、誰も知らない
僕らには、それを推察することしかできない

覚えておいて

僕らが知っているのは全部、彼の"噂"だけってこと

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