【タイトー】「貧相」で「汚い」?!JCシステムのはじまりを探る
事の発端
私タイトーが好きなんですよね(唐突)。ここは話せば長くなるので割愛します。
その日は、とあるVTuberによる『電車でGO! EX (セガサターン版)』の実況生配信を観ていました。特にタイトー作品がいくつか遊ばれた週で、その日も楽しんで観ておりました。
すると、下記のコメントが。
『写してちょ!』。タイトーが1997年にリリースしたというほかは、自分は名前くらいしか知らなかった作品。
一方JCシステムといえば、前述の『電車でGO!』および同『2』をはじめ、フライトゲーム「ランディング」シリーズの一作『ランディングギア』、レースゲームの『サイドバイサイド』シリーズといった、タイトー製の業務用体感ゲーム作品で使用されていたシステム、というところまでは知っていました。
なんと、その「業務用体感ゲーム作品で使用されていたJCシステムが、プリントシール機のハードをベースに作られたものだった」、と。へぇー……
えぇ……?……本当に?!と思って、調査を始めました。
なお、本記事で引用するゲームマシン誌の画像は、アーカイブを公開するに当たって - Game Machine Archiveに記載の下記部分に基づいて行っています。
また、「ゲームマシン」と記載するとき、それは『アミューズメント通信社発行の「ゲームマシン」』を指すものとします。
コメント内容の根拠
このコメ主はこの動画投稿者の熱心な視聴者の一人とみられ、よくこうやって、ほとんどの場合どっかから都度調べてきたと思われるうんちくを放流しています。今回のように、知らなかったことを知れる機会になるコメントもありますので、いい勉強になりますね。コメ主のスタンスに思うところはさておき、続けます。
ゲームカタログ@Wiki
コメントの根拠となったと思われる該当箇所はここ。
なるほど、これが根拠のようですね。
この記事は、辿れる限りでは2020/05/24 (日) 09:48:15にkaminoyama氏によって初版が起こされ、その時点で既にこの記述があったようです。
それにしてもこの記事、グラフィックについての表現が、具体的な比較対象作品を設けていないのに凄まじいこと凄まじいこと。例えば……
貧弱な基板
微妙な性能
明らかにグラフィックが貧相
あの汚いJCシステムのグラフィック
あの汚いJC画面
最後なんか、馴れ馴れしいまである。なお、全て初版から存在する表現です。
私が今回発信したXへの反応の中にも、「あの電車でGO特有のガビガビグラフィックの」というものを見かけており、グラフィックには厳しい評価をされる傾向が強いようです。
ともあれ今回の記事では、グラフィック性能の有効活用度までは検証対象にしていないので、そこは有識者に譲りたいと思います。
『写してちょ!』について
この記事によれば、『写してちょ!』は、撮影した顔写真から、システム手帳用のオリジナルリーフを作成するマシンだったようです。p. 28には広告も掲載しています。
さらに遡って、前々号にあたる「ゲームマシン」1997年9月1日 第548号 p. 3によれば、1997年7月14日にタイトーは本社にてプライベートショーを開き、そこで新作として披露されたとのことです。
で、ここで注目しておきたいのは、『写してちょ!』が「(1997年)9月下旬発売」という部分です。
『電車でGO!』について
もはやゲーム内容については説明不要と思われる、現在まで続くタイトー屈指のヒット作の第一作です。ここでは発売時期について確認します。
「ゲームマシン」1997年3月15日 第537号 「話題のマシン」コーナーのp. 17によれば、本作は(1997年)3月10日発売とのことでした。
JCシステムについて
この記事によれば、JCシステムは、セガ、ナムコに続いて発表された、毎秒25万ポリゴンの描画能力を持つ32ビットCGシステム基板だったようです。
1995年当時、他社のポリゴン描画基板としては、セガは、1993年に発表した毎秒30万ポリゴンのモデル2(1995年作品としては『セガラリーチャンピオンシップ』など)、ナムコは、1992年ごろに発表した毎秒24万ポリゴンのシステム22(1995年作品としては『レイブレーサー』など)があり、タイトーもこれに続いた形ということになります。
タイトルは下記の2作品が予定されていました。どちらも曲がめっちゃいいのです(後述)。
『デンジャラスカーブス』
バイクと車が入り混じる珍しいレースゲームです。同年7月下旬に発表されました。(「ゲームマシン」1995年8月1日 第500号 p. 21より)『アウトバースト4D』
SFレールシューティングゲームです。ロケテストまでは目撃情報を確認できたものの、それまでだったか、一部のロケでしか正式稼働しなかったか、という作品です。
で、ここで注目しておきたいのは、JCシステムが「(1995年)2月22日発表のポリゴン基板」という部分です。
分かったこと
時系列
整理すると、このような時系列となるはずです。
1995年2月22日:JCシステム発表。この時点でポリゴン搭載が決定している
1995年7月下旬:JCシステム作品『デンジャラスカーブス』発表
1997年3月10日:JCシステム作品『電車でGO!』発表
1997年9月下旬:『写してちょ!』発表
上記に基づけば、ゲームカタログの記載内容である「使用基板は(略)「JCシステム」だが、実は当時のタイトー製シールプリント機『写してちょ!』の基板をベースにポリゴンを使えるようにしたもの」は、かなり無理がありそう、ということになります。
各社基板のポリゴン描画能力
各社基板の性能を数字だけで比較すると、下記のようになります。
ナムコのシステム22(1992年ごろ発表):毎秒24万ポリゴン
セガのモデル2(1993年に発表):毎秒30万ポリゴン
タイトーのJCシステム(1995年に発表):毎秒25万ポリゴン
上記に基づけば、基板自体のポリゴン描画性能でいえば、同時期の他社作品と比べて「明らかに貧相」と言えるほどの差はないように思えます。もっとも前述した通り、各社のCG技術の熟練度や、作品内で活かせていたかというのは、上記の数値だけでは測り得ないものとなります。
また、タイトーはその後1996年に、プレイステーション互換で、毎秒36万ポリゴンの描画能力を持つFXシステムを発表し、『サイキックフォース』や『レイストーム』(1996年)、『Gダライアス』(1997年)といった一般筐体向けの作品を発表しています。それらの作品と比べれば、JCシステムの秒間描画ポリゴン数は低いということになります。
分からないこと
『写してちょ!』が文脈に登場した経緯
この作品がJCシステムのベースとなっている訳ではなさそうであることは上記の通りです。
すべての整合性を取れる解として、下記が考えられないこともないですが、まずあり得ないと考えています。
実は執筆者がタイトーの関係者かそれに近い立場の人間で、かつ実際にはJCシステムが本来、(実現には2年かかった)『写してちょ!』のためのものであり、その経緯を知っていた
ただ何故、当該Wikiでこの作品が引き合いに出てきたのでしょうか?むしろ当該記事以外では、同Wiki内の『グルーヴコースター』についての記事(こちらもなかなかアレな文脈で登場)くらいでしか取り沙汰されていない作品であり、その経緯は不明なままとなります。
『写してちょ!』に関する自分メモの記載誤り
調査開始時、自分の手元のメモには『写してちょ!』の発売時期が「1997年の7月」として記載がありました。結果、今回の記事の内容に大きく影響を与える差異ではありませんでしたが、この記載が何を根拠に描かれたものなのかは、いつか特定したいと思っています。
「『レーシングビート』は『ころころポン!』がベース」?
ゲームカタログ@Wikiの記事の初版には、下記のような記載もありました。
当該の記述は、2023/07/08 (土) 10:54:05の版でkaminoyama氏自身により削除されましたが、これを引用したアフィリエイトブログ「いっぱいゲームを楽しもう」には記載が残っています。
『ころころポン!』(表記揺れがありますが、筐体に描かれたタイトルはこうです)は、1991年上旬にタイトーが発表したエレメカ。ナムコの『スウィートランド』(タイトーで近いのは『ダブルチャンス』)のような形の筐体をしており、タイミングよく10円玉を投入し、中央の回転する支柱に設けられた穴に見事入ればプライズゲット、というものです。TAMAYOこと河本圭代さんが、タイトーで最初にサウンドを手掛けられたという作品でもあります。
伊香保グランドホテルのレトロゲーム横丁にて稼働していたものを熱心に遊んだことがあり、思い出深い作品です。
『レーシングビート』は、1991年4月にタイトーが発表したレースゲーム。同社の『チェイスH.Q.』(1988年)の流れを汲むハードウェアの、かなり末期の作品に当たり、F1を題材とした作品となっています。こちらも作曲はTAMAYOこと河本圭代さんが担当しています。
で……エレメカの基板に画像出力を付けるくらいでレーシングゲームに出来るものなのでしょうか?
ちなみに音源的な話をすれば、『ころころポン!』は音を聴く限り何らかのPSG、『レーシングビート』はFM+SSG+ADPCM併用のヤマハYM2610を採用しており、そうだったとしても画像出力をくっつけただけではないのは確かです。
この件も、何故これらの作品が結び付けられるに至ったかの経緯は不明となります。
サントラ情報
前回記事から時間が空いたこともあってか、noteにSpotifyが貼れることを知れました。ここからは気分を変えて、記事に登場した作品からピックアップした音源を紹介していきたいと思います。
タイトーは自社サウンドチームのZUNTATAや、1996年に立ち上げた自社レーベルのZUNTATA RECORDがあり、今でも権利を保有している楽曲も多いためか、音楽配信サービスの充実度がとても高く、大変助かっております。みんなも聞こう。それでは……
「Dangerous Curves」 from 『DANGEROUS CURVES』
1995年にサイトロンからもサウンドトラックが発売されていたのですが、こちらはZUNTATA RECORDSから出た(現在も配信で聴くことが出来る)ベスト版アルバムに収録された2曲のひとつです。サイトロン版ではBGM 1とされていました。Dr.Haggyこと高萩英樹さんの担当作品としては比較的初期の作品にあたりますが、既にセンスが爆発していることが判ります。
同じアルバムに収録の、ENDING 2にあたる「Magic Touch」も併せて是非。なお高萩さんは、同じくJCシステムの『サイドバイサイド2』でも楽曲を担当されています。
ちなみにサイトロン版サウンドトラックは、「J.A.M.の電車で電車でGO!GO!GO!」でブレイクするZUNTATA-J.A.M.の、記念すべきデビューアルバムでもあります。こちらを手に入れた暁には、未だ歌詞が明らかになっていない「LAUGHING CLOWN ~愛のJunkie as Machine~」もお楽しみいただけます。karu.こと海野和子さんに「あんたバカじゃないのぉ?」されたい方は是非。
「FUTURE EXPRESS」 from 『OUTBURST 4D』
作曲者のSHUこと中澤秀一郎さんの担当作品を特集したアルバムに収録。まずは聞いてほしい。『デンジャラスカーブス』よりも動画が残っていませんが、ロケテストではエンディング前までこの一曲のみだった模様です。サビ前のデーデーは「RYDEEN」のオマージュだそうですよ。
なお中澤さんは、同じくJCシステムの『ランディングギア』でも楽曲を担当されています。
「BLUE WIND (LIVE TAKE)」 from 『SIDE BY SIDE』
JCシステムのレースゲーム『サイドバイサイド』から、BGM 1のサントラアレンジです。サックスは故・平原まことさんが担当していました。
作曲者のSAWAMMYこと三澤宏行さんは、担当作品こそ多くありませんがシブめの曲を多く残されております。『まじかるで~と』の開発後半で追加された担当楽曲もオススメです。自身で歌われる曲もとてもよいです。
『RCでGO!』の「Ending」は、今年発売された『HOPPA!』にてセルフリブートした音源が収録され、ファンを沸かせました。
「Take me sunset (Ending)」 from 『電車でGO!』
アーケード版から使用されているエンディングスタッフロール曲です。『2』でも一部のエンディングで使用されます。爽やかに全区間走破を讃える名曲です。
作曲者の中山上等兵こと古川典裕氏によるこの曲のセルフアレンジである「Mirror of Mind ~The Dawning~」も併せて、ぜひ聞いていただきたいです。
(おまけ) 待機BGM from 『ころころポン!』
僭越ながら私めが実機から録音した音源です。この動画を公開当初、サウンド担当者が誰か分からず、元ZUNTATAの海野和子さん、古川典裕さん、小倉久佳さんを巻き込んでちょっとした議論が起こっていました。のちに河本圭代さんマニアの知人により、河本さんのご担当作品であることが判明した、という経緯があります。
この音は実際よくできているのもそうですが、設置場所でとにかく「鳴っていた」ので、それも込みで印象に残っています。
エレメカやメダル機の楽曲は音源化されにくい印象があるので、見つけたら積極的に録音していきたいと思っています。
おわりに
前回のnoteはかなり後味の悪いものでしたが、今回はおおむね解決したと思われるが多めの内容となりました。曲の紹介もできたし、満足です。
ゲームに伝説や噂話やネガキャンはつきものですが、なるべく一次情報を参照して、冷静に整理できるように居たいものです。
なお、ご指摘、追加情報は大歓迎です。
また何かのnoteでお会いしましょう。それでは。
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