医師の需給。
医学部の入学定員が過去最大規模まで増員され、医師数は増加し続ける。2022年度の国公私立大学医学部の入学者は9374人、医師国家試験の合格者は9222人で、そのうち9165人の臨床研修医が全国の臨床研修病院で働き始めた。
20年の全国の届出医師数は約34万人で、男性医師は77.2%、女性医師は22.8%である。20年の届出医師数を18年に比べると、約1万2千人、3.8%増えた。人口10万対医師数をみると269人で、前回に比べ10人も増加し、カナダ、英国、英国とほぼ肩を並べる。
一方、14年前から始まった人口減少は止まる見込みがなく、今世紀は人口減少時代が続く。20年の推計によると、早ければ29年、遅くとも32年には医師需給が均衡し、その後は供給超過になると見込まれている。
常に政府の対策は手遅れで、すでに医師は過剰である。医師数の増加、高度な医療の導入と新薬の登場による医療の進歩、多病・多死の高齢者人口の増大は国民医療費の増加の主な要因で、社会保障費の負担は大きくなる。
それでも開業ラッシュという訳ではなく、むしろこのコロナ禍では医師不足が叫ばれ、医学部新設の声も聞かれる。医師の絶対数の問題ではなく、問題の本質から外れると思われるが、地域別・診療科別の医師の偏在にあるという。
そこで厚生労働省は15年12月「医療従事者の需給に関する検討会・医師需給分科会」を設置し、約6年間計40回の会議を開催し、22年1月に第5次中間とりまとめを行い、一応の区切りを付けた。
座長の片峰氏(長崎大学学長、現地方独立行政法人長崎市立病院機構理事長)によると、医師削減の課題は総数の議論では問題は解決しないと述べている。医師需給の問題は医師、専門医の偏在の問題を考慮しながら、地域医療構想、医療費、臨床研修制度、専門医制度、医学教育、働き方改革などが密接に関連し、しらがみが多く、様々な議論が必要である。
当初は会議の委員すべてが同じ意見で、これまで政府は医師の総数を増やしてきても、何も問題は解決しなかったという問題意識を抱いていた。「今度こそ」はという思いがあり、分科会の多数の意思として、医師数をこれ以上増やすべきではないという判断でまとまったようだが、確たる数値目標は設定できず、将来の医師需給推計や医師偏在対策の効果検証も含めて、医師の総数と配分を決めるという総論的なまとめで終わった。
今の医学部定員には「臨時定員」が含まれており、17年度あるいは18年度までの取り決めだったが、23年度までは基本的に維持することが決定している。「臨時定員」の期限が来ているのに、5年も6年も延期されるのは、誰もが頷くわが国の弊害の典型を示している。