わが国の対外純資産について。
対外純資産とは聞き慣れないが、対外資産と対外負債を合算したもので、「対外」とは外国の意味で、わが国の政府や企業が保有している資産や負債である。こういった統計は、国際連合の専門機関の一つである国際通貨基金(IMF)が扱う。
この機関は1945年に国際金融と為替相場の安定化を目的として設立され、189の加盟各国の中央銀行を取りまとめるような役割を担い、国際貿易の促進、加盟国の高水準の雇用と国民所得の増大、為替の安定などに貢献している。
IMFは世界銀行と共に国際金融秩序の根幹を形成するが、対象国に対して財政緊縮策や構造改革などの厳しい貸出条件を課すことがある。これは経常収支の均衡を図るために景気を冷却化させる目的で行われるが、対象国の経済条件や国内事情を無視した画一的な政策が状況を悪化させる場合がある。
全ての国の統計が揃っているわけではないが、その統計によると、最大の対外純負債を持つのは米国であり、次いでスペイン、ブラジル、フランス、オーストラリア、アイルランド、メキシコ、インドと続く。米国ドルは世界の基軸通貨でもあり、極めて大きな金額に上り、スペインの19倍以上と言われる。
一方、最大の対外純資産を保有するのはわが国で、次いでドイツ、中国、香港、ノルウェー、カナダ、スイス、シンガポール、韓国が続く。この資産は公的なものと民間のものを合算したもので、即時に換金できる訳ではない。
しかし、対外資産の一部は国内の余剰資金と併せてジャパン・マネーとなり、投資の源泉となっている。この資金は内外を問わず収益機会を求めて移動し、巨額であることから、外国為替市場や世界的な資金の流れに与える影響も大きく、国際金融市場でその動きが注目される。
多くの企業は1980年代にニューヨークのロックフェラー・センター、ハリウッドやハワイのリゾート地などの知名度だけ高い不動産物件を買い求めた。当時の米国では日本脅威論が盛り上がったが、近年浪費はしなくなり、外国企業の買収や合併が中心となっている。
実際に対外純資産は使えないとの指摘がある。諸国の事情により、その運用や実際の利用にはさまざまな制約が存在する。個々の国の財政状態を概要的に知る程度の情報で、状況の改善を模索するための参考資料程度に過ぎない。
といっても、対外純資産が大きいと、経済的なショックや不確実性に対してより強い耐性を持つことができる。これは外貨準備が豊富であることから、為替レートの変動や国際的な金融危機に対しても安定した対応が可能となる。
また国際的な信用力が高まり、借り入れ条件が有利となり、低金利で資金を調達でき、海外への投資機会が広がる。国内の経済成長を促進し、企業の競争力を高め、さらに海外からの収益が増えるため、貿易赤字を補い、貿易収支が改善し易くなる。
財務省の資料によると、わが国の対外純資産は2023年末まで33年間連続で世界最大だった。しかし、24年にドイツに抜かれ世界2位に転落したが、それでも471兆円を保有する。これは国内総生産(GDP)の85%程度に相当し、183兆円の外貨準備金を含む対外資産残高は1488兆円で、対外負債残高は1017兆円で、経常収支は21兆円の黒字を示した。
こういった資金も物価高に苦しむ国民の救済に役立ててほしいと願う。