江藤新市長の挑戦。
福岡県大川市と言えば、木工業の一大生産地で、デザイン性が高い「家具のまち」として知られる。人口は一時5万人を数えたが、現在は約3万人で、一般予算は190億円程度で、佐賀市に隣接し、独立した経済圏を形成するが、近年、家具の生産は縮小しつつある。
2024年9月29日に行われた市長選挙では、政治の経験のない77歳の新顔の江藤氏が、3期目を目指した47歳の現職市長の倉重氏を破った。当日の有権者数は2万6848人で、投票率は60.8%で、江藤氏は8380票、倉重氏は7801票を獲得した。
江藤氏は大川市で生まれ育ち、 九州大学理学部卒業後5年ほど企業に勤め、家業に入った。現在は1920年創業の地元で大手・家具企画開発会社「エトウ」相談役を務める。大規模な公共事業である「大川の駅」の問題は、的外れな内容や反対派への妨害工作などが行われているのを見て、利権絡みの計画としか思えなかった。
当然、選挙の争点は市が推進する総事業費約89億円の産業・観光振興拠点「大川の駅」(仮称)であった。計画によると、有明海沿岸道路、九州佐賀国際空港、三池港などのインフラを活用し、地域の経済的浮揚を図ることを目的とする。これは倉重氏の市長就任前からの構想で、市議会では関連議案が賛成多数で可決されており、27年度末の開業を目指し、予定地では軟弱地盤対策工事が始まっている。
具体的に「大川の駅」は道の駅と川の駅の機能を併せ持ち、地域のものづくり産業を支援する施設として計画され、木工クラフト振興機能や飲食、産直・物販施設を備え、地域の産業振興と観光の拠点とする。これには民間事業者による運営が予定されており、総事業費は59億8500万円が見込まれている。
しかし、市民の間ではこの大規模開発計画に対する意見が分かれており、この利権がらみのプロジェクトに反対の立場から一念発起した江藤氏の当選は、市政における新しい方向性を求める市民の声が反映された結果と言える。実務的な新市長の下で、大川市はこれからどのような方向に向かうのか、注目が集まっている。
新市長は市政運営の方向性を一新し、透明性を高め、市民が政策決定プロセスに参加し易くし、市民のための政治を目指し、市民の生活の質を向上させることを最優先事項とする。財政の負担を軽減するため、市民の意見を反映した開発計画への転換を提案し、「大川の駅」プロジェクトに全面見直しを含む廃止を掲げている。
また市三役・議員の報酬の見直しも江藤市長の政策の一つである。副市長のポストの一つを廃止し、市長・副市長・教育長の報酬を10%削減し、さらに市長の給与を20%引き下げる。
一方で、市長の政策や方針に対する批判的な意見も存在する。とくに「大川の駅」プロジェクトの見直しには賛否両論があるのは当然で、市民の中には、計画の見直しが市の発展を遅らせるのではないかと懸念する声もある。
市民政治に対する努力が求められる。