医師の過剰と医療費。


 社会保障は破綻したと言われて久しく、その中に含まれる医療費も例外ではない。不足する分は国の予算から補填されており、このため国の借金が増大したというが、国民に等しく分配が行き届くなら、それはそれで良いとする意見も多い。
 2020年の社会保障給付費総額は126.8兆円で、10年前の105.4兆円と比べると、21.4兆円増加した。医療給付額も33.6兆円から40.6兆円へ伸張し、7兆円増えた。
 そのうち国からの補填は、年金12.5兆円、医療12.1兆円、介護3.4兆円、総計は約28兆円で、予算の3割弱を占める。かなりの巨費になるが、オリンピック、万国博覧会、国葬、防衛費に無駄な大金を使うくらいなら、国民の安全保障やライフラインの確保にはこの程度のことは仕方がないとも言える。
 社会保障費は高齢人口の増大に伴って毎年膨張する。当然の話でも、医療政策の論客で、日本福祉大名誉教授の二木氏(75)によると、給付削減と負担増が主眼の「全世代型社会保障」をかけ声に社会保障改革に取り組もうとした安倍政権は、10年間で7兆円も増えたにも関わらず、厳しい医療費抑制政策をとってきたという。
 薬価を含めた診療報酬の全体を引き下げ続け、結果として国民医療費の伸びを抑制した結果、医療機関の経営は悪化した。なるほどと頷けるところがある。医療費の増加は主に人口の高齢化と医療技術の進歩によるとされるが、むしろ医師数が増加した要因が大きいのではないだろうか。
 わが国の20年の総人口は1億2400万人で、10年間で300万も人口が減少した。それにも関わらず、医師数は34万人で、4万4千人が増え、毎年4千人も増加した。増加の内訳は勤務医が8割、診療所の医師は2割で、20年の診療所数は102600で、10年間に2600施設が増加したにすぎない。20年の人口10万人当たりの医師数は269人、10年前は230人で39人も増えた。
 医師一人が診療する患者数は減少し、開業も経済的なメリットが少ないことを裏付けるが、それでも医師が増加するぶんは確実に医療費が膨張する。医師はすでに過剰であっても、この10年間に2つの医学部を新設し、22年度の医学部入学定員は81大学9千4百人に上った。
 このようにわが国の医療機関を取り巻く経営環境は良いとは言えず、病院の4割が赤字経営で、とくに公立病院では顕著である。人口減少による医療の縮小と超高齢化に伴い医療費の抑制が進められ、医療機関の経営は今後さらに厳しい状況になる。
 今でも医学部の定員増加など人材不足解消のための対策が取られ続けているが、30年も前から将来を見据えた医師削減計画が検討されており、利権や利害関係から遅々として進まない。医師の労働時間を週55時間程度に制限した場合でも、現役医師の人数が約36万人に到達する33年頃に医師の需給バランスが均衡になるとの計算もあるが、現場はすでに医師過剰である。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?