役所ぐるみ。
2022年5月岩手県釜石市(人口約3万人)では、住民基本台帳のデータを業務に関係なく、職員間でメールのやりとりをし、全市民3万人超の個人情報を漏洩した事件が発覚した。本件は市の調査だけでも、関与した職員は11名に上り、15年から21年まで6年間も続いた。
わが国では役人の不正が後を絶たない。国民の権利や利益を侵害し、公共サービスや政策の質を低下させるばかりでなく、世の中や国際社会における信頼性や評価を損なう。これまでの対策では効果がないようで、今一度役人の不正は厳しく処罰し、再発防止のために制度や監視を強化する必要がある。
本件の発端は市民の資産や企業経営などの情報を知る立場にある税務課の職員で、約3万5000人分の住民票や納税証明書などの個人情報を含む書類やデータを、自宅や車内に持ち帰り、無断で保管していた。市は全職員に対してパソコンやスマートフォンなどのデータ管理状況を調査し、他の不適切な事例を確認した。
税務課の職員は個人情報を不正に持ち出し、インターネットに流出させたり、第三者に売却したりした。仕事の効率化を図るためや、市民の生活状況を把握するためだと供述したが、これは言い訳に過ぎない。
一般に税務課や税務署に所属する職員は、税金を強制的に取り立てる徴収という言葉に甘えて、高圧的で横柄な態度を取る人が多い。しかし、公務員として市民や国民から税金を納めていただくという姿勢が必要で、そういった精神の人は不正など働く隙はない。
個人情報の漏洩は、市民にとって深刻な問題である。自分の個人情報が不正に利用されると、悪意のある第三者からの被害に巻き込まれたり、プライバシーが侵害されたりする恐れがある。また戸惑いや恐怖、恥ずかしさや屈辱といった感情を抱く人も多い。職員が個人情報を売却したり、競合する企業に流出させたりした可能性も否定できない。
釜石市は震災復興事業に取り組む中で発生したこの事件を重く受け止め、23年1月に調査委員会を設置した。委員会は3月下旬に総務企画部、建設部、市民生活部に所属する職員11人に対する取り調べ結果を含む報告書を野田市長に提出した。
市は2名の職員を懲戒免職処分とし、刑事告発を行い、市民への謝罪文を公表し、今後は個人情報保護に関する教育や監督を強化し、再発防止に全力で取り組むと表明した。それだけでは不十分で、月並な対応では許されない。