アクセルとブレーキ。

 2023年3月10日日本銀行の黒田・総裁は4月8日までの任期中で最後の金融政策決定会合後に記者会見を行い、これまでの政策の成果をまとめた。最大の目標であった2%の物価安定目標を実現できなかったが、黒田氏は日本経済の潜在的な力が十分発揮されたという意味で成功したと述べた。
 具体的な効果として、デフレーションを解消して経済を活性化させ、400万人以上の雇用を創出し、就職氷河期と言われた状態が完全になくなった点などを上げた。確かにそういった見方もできるが、そう理詰めで言われても、理屈と現実には解離があり、違和感を覚える。
 この間賃金はほとんど上がらず、暮らし向きが良くなった気配はなく、むしろ全体に貧困化し、貧富の格差が目立つ。経済と産業は弛緩し、活況を呈している様子はない。構造改革や先進産業の育成など大切な問題は何も行われなかったのが実状で、膨大な債務だけが残り、素人目にも散々な結果に思える。
 しかも、長期にわたる政策の継続はプラスの効果よりも、有害作用がはるかに大きい。異次元緩和は財政規律を緩め、わが国の債券市場の機能を毀損させただけと言っても過言ではない。とくに懸念されてきた金利と拡大したバランスシートの問題を問われても、黒田氏は大規模緩和の出口戦略は口を濁し、4月からの新体制の課題として残した。
 この10年間日銀は驚くほどの膨張ぶりである。黒田氏はそれ以前の15年にわたるデフレについて、その責務は日銀にあると明言し、日銀の金融政策を批判していたこともあって、総裁としてこれまでにない大規模な量的金融緩和に基づいた政策を実行した。
 「日本銀行券発行高」+「貨幣流通高」+「日銀当座預金」の総計で、日銀が供給するマネタリーベースは、12年から約521兆円も増えて、約620兆円にも達する。金融機関などから預かる当座預金は、約485兆円も膨張し、529兆円に上る。
 日銀の膨張ぶり、金融緩和の凄まじさに驚く。近い未来、異次元の金融緩和は再評価され、大失敗だったと評価される可能性が高い。企業は競争力を失い、政府債務は過去最高を記録し、円安の先行きも分からない。金利の引き上げなどの金融市場の正常化は至難の業である。
 極端な政策を行えば、その反動も大きい。この間日銀が金融緩和でアクセルを吹かし続けても、財務省主導による2回の消費税増税と緊縮財政によって、ブレーキを踏んでいるような状態が続いた。

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