医学部の入学定員について。

 わが国の公共サービスへのニーズは増大し、多様化している。このような社会状況の変化を背景に、複雑かつ高度化した行政に対して、単純で明快な透明性の高い運営が求められる。
 税制、保険、医療などはじめ諸制度は、IT化の進歩によって書類の作成や資料の検索、解析が効率的になり、外部に発注する仕事も多くなった。その結果、書類の分量は増え、行政システムも複雑化した。
 本来、行政機関が公表する文書や資料は、義務教育のレベルでは理解できるものでなくてはならないが、しばしば高等教育を受けた人でも解釈が難しい。現在では情報公開、政策評価などの制度が導入されているが、さらに行政の運営やシステムが国民に分かりやすく行われる必要性がある。
 以前から医師過剰の問題が議論されている。現在でも地域によって医師数と専門医数の偏在があり、これが医師不足として誤解される場合が多い。2023年の全国の医学部の入学定員は9384人だった。この推移をみると、10年は8800人、21年と22年と23年の3年間は9400人台でも、毎年微増している。
 一方、22年12月の全国の届出医師数は34万3千人で、人口10万当たり275人であった。16年は31万9千人、18年32万7千人、20年34万人と、毎年4~6千人が着実に増えている。
 人口の減少を考慮すると、すでに医師過剰である。20年8月の将来の医師需給推計によると、現在の医学部入学定員を継続すると、29年頃には医師過剰に到達する予測がある。
 医師の過剰は生活基盤が極めて不安定になる。それ以上に医師数の増加そのものが国民医療費の膨張を招き、医療保険制度が逼迫する。また美容医療や加齢医療、過剰診療などの不適切な医療需要も増加し、医療事故も増える。
 現在の医学部の入学定員は、恒久定員と臨時定員に分かれている。臨時定員は暫定増と追加増などがあり、地域によって異なり、複雑な構成となっている。厚生労働省の検討会では、以前から定員を減らす方向で一致しており、医師多数県の臨時定員削減で了解されているが、実際には増加する傾向にある
 毎年の定員の決定に際して、必要な医師数を各県が独自に算出すると収拾がつかないとか、診療科や地域によっては医師が足りないとか、臨時定員については教育の立場から、負担が大きく、教育の質が懸念されるなど多様な意見が出る。また偏在の是正には、医師多数の地域から医師少数の地域への移動を促すことが適切という指摘がある。
 医学部の入学定員の問題は単純に見えるが、実際には複雑である。

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