今回の財政検証について。
2024年7月3日、厚生労働省は社会保障審議会年金部会での公的年金制度の財政検証の結果を、前回よりも2か月近く早く公表した。これは年金財政の収支を点検し、制度の問題点や将来の見通しを検証し、必要な改革を進めるために、5年に1度行われる。
厚労省はこの結果を踏まえ、秋に与党と年金制度改革の議論を始める。年末までに具体策をまとめ、来年の通常国会で関連法の改正案を提出する。年金制度については「所得代替率」という指標が最も重要で、これは現役時代の手取り収入に対する年金給付の割合を示し、夫婦2人のモデル世帯に対して50%を下回らないことが法律で保証されている。
今回の財政検証によると、今年の「所得代替率」は約61%と算定された。過去30年間の停滞した経済状況が続いたとしても、5年後の所得代替率は、さまざまな経済ケースを踏まえても59%から60%を示し、おおよそ現在の水準を維持できる。
これには女性や高齢者の労働市場への参加の増加、外国人労働者の増加による人口構造の変化、株価上昇による年金積立金の増加など複数の要因がある。これらに加えて賃金の大幅な上昇やインフレによる厚生年金の保険料の増収が見込まれ、期待ができる。
公的年金制度は社会保障の根幹をなす制度で、その健全性は国民の生活に直結する。財政検証は、年金制度の「定期的な健康診断」とも言えるもので、将来にわたる年金給付の安定を図るために不可欠である。しかし、公表の度に政府をはじめ、一斉に証券会社、銀行、生命保険会社などのシンクタンク、年金評論家や解説者による複雑で、やたら難しい議論が展開され、当惑する。
わが国の公的年金制度は基礎年金(国民年金)と厚生年金の二階建ての構造からなる。自営業者や学生、無職の人、年金生活者などを含めて、20歳から60歳未満までのすべての人全ての国民が基礎年金の対象となり、厚生年金は企業に勤める70歳未満の人が加入する制度で、自動的に加入することになっている。
基礎年金について、過去30年間と同じ程度の経済状況が続いた場合、「所得代替率」は現在の36%から57年には26%となり、1割以上も低下する見通しで、これには懸念がある。
この問題に対処するため、年金制度への国庫負担、個人の積立金額、年金受給開始年齢の引き上げなどが議論された。その結果、国民年金保険料の納付期間も現在の40年から45年への延長は見送られる方向となった。
最終的に、公的年金制度は福祉的な要素が強い基礎年金を中心に構築されており、少なくとも財源は税金で補填される必要がある。先進国の国民としては、「老後の生活が心配」という不安を抱えることなく、「老後は国が無条件に保障する」という安心感を持てることが当たり前である。