国葬が終わっても。

 2022年10月3日の朝日新聞の世論調査(1、2日実施)によると、9月27日の安倍元首相の国葬を岸田内閣が国の儀式として行ったことについて、「評価しない」は59%、「評価する」はわずか35%に過ぎなかった。与党寄りとされる読売新聞の調査(同)でも、国葬実施を良かったと「思わない」が54%、「思う」は41%を示した。
現在物価高、コロナ禍、東京五輪汚職、旧統一教会など様々な難問に直面している。本来は経済対策や感染対策が主題になるところだが、それが厳粛な葬儀に関して大騒ぎするのは奇妙である。
 安部元首相の国葬は葬式であっても、葬式ではないと言われる。その理由は死を利用し、国費を投入した政治的なイベントで、感動を盛り上げ、情緒に訴えた安部・菅政権の悪事を隠蔽するためのカルトの祭典にすぎないという意見が有力である。
 国葬問題は国民の幸福に貢献したか、人格的にも高潔だったかを問うもので、多くの国民はそう考えなかった。前の世論調査でも同様の傾向だったが、これには自ら国葬を決断した岸田首相に対する評価、国費の乱費や旧統一教会問題に対する対応の不満を含んでいる。
 内閣の支持率を見ると、やはり支持率は低い。朝日の調査によると、不支持率が前回調査(9月10、11日実施)の47%から3ポイント増え50%となり、半数に達したが、支持率はほぼ横ばいの40%を示した。
 読売でも岸田内閣の支持率は45%で、前回調査(9月2~4日)の50%から5ポイント低下した。不支持率は46%(前回41%)で、政権発足後初めて不支持が支持を逆転した。といっても、歴代内閣と比較しても、それほど悪い水準ではなく、これですぐに総辞職という訳ではない。
 岸田氏は政権担当後も最大派閥の安部派の勢力に圧迫されるところが多く、国葬の前から元気がなかった。国葬後の評判も悪く、調査の結果、すっかり政権を運営する気力を失ったようだ。
 ところが、10月4日岸田氏は公設秘書で長男の翔太郎氏を、政務担当の首相秘書官に起用した。同氏は慶應義塾大学法学部を卒業後、三井物産に入社し、20年から岸田氏の議員事務所に入った。松野官房長官は「人事は適材適所の考え方でおこなっている」と弁明したが、野党からは厳しい批判の声が上がっている。
 この問題に文句を付ける筋合いはないが、今のタイミングで秘書官に起用した点を巡っては、批判だけでなく様々な臆測が流れている。身内の起用は跡継ぎとして政治の勉強ということだが、首相周辺では辞職説が出ているようだ。
 そうなると、後任の人事が取り沙汰される。経済逼迫とコロナ禍で緊迫した状態が続き、五輪疑獄事件の大捜査が進行中であり、経済と法治を破壊し続けてきた陳腐な体質の安部・菅政権への逆戻りだけは避けたい。
 この意味で歴史的な分岐点である。

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