個人的な怨恨による一撃。

 2022年7月8日11時31分、安倍・元首相(当時67歳)が奈良市で参議院選挙の応援演説中に銃撃を受け死亡した。奈良地方検察庁は1月13日、異例の170日間の鑑定留置後、ようやく奈良市の無職の山上・容疑者(42)を殺人と銃刀法違反(発射、加重所持)の罪で起訴した。
 起訴の理由は近鉄大和西大寺駅北口で応援演説中だった安倍氏の背後から自作の銃を2回発射し、殺害した。銃は金属のパイプ2本を束ねたもので、山上被告は金属製弾丸の発射に用いる火薬もインターネットの情報を基に自身で調合した。
 演説中の安部氏の背部から迫った山上は、約7メートルの距離から1発目を放った。誰にも弾は命中しなかったが、大きな爆破音とともに白煙が上がり、同氏は左後方へ振り返った。1発目の発射から2.8秒後警察官が止めに入る前にさらに近づき、5メートル
の距離から2発目を撃った。
 散弾の一撃は首の右前部と左上腕部に着弾した。安部氏はその場に倒れ込み、意識を失い、心肺停止となった。警察庁刑事局による司法解剖は、左上腕部射創による左右鎖骨下動脈損傷に基づく失血死であると結論した。しかし、専門家によると、普通この程度の自作の短銃による銃撃で死亡することは希で、体内での弾道の軌跡も普通ではなく、真に運が悪かったという。
 山上は銃撃直後に殺人未遂容疑による現行犯で逮捕された。母親が世界平和統一家庭連合(旧統一教会)に入信し計1億円以上の献金を行い、家庭が困窮、崩壊した理由などから、教会を憎んでいたとみられている。そして、これまでの県警の調べに「安倍氏が教会の活動を国内で広めたと考えるようになり、銃撃の対象にした」と説明した。
 そんな凄惨な事情があったのかと世間の同情を集めたが、その瞬間阿倍の蓋が開いた。モクモクと上がる黒煙の中から、突如旧統一教会問題、五輪疑獄、何人かの大臣の辞任、異次元の金融緩和の弊害、政治の私物化など、様々な悪事や矛盾が現れ、革命と言える状況を催し、世の中は唖然とするやら騒然とした。
 旧統一教会と安部氏に踏み躙られた個人的な怨恨を晴らそうとした1発の銃撃は、社会的に大きな影響を及ぼすだけではなく、政治や経済にも影響を与えることになり、評価は後世に委ねるのが妥当である。
 この事件が起きた背景には社会の異常性が根底にあった。それが浮き彫りになったが、人びとの無関心の中で多くの悪が行われてきた事実も明らかになった。山上自身もそこまでは考えもしなかっただろうが、社会を大きく変えるような誘因を作り、烈士の一人として名を残す可能性がある。
 本事件を許容するつもりは全くないが、政治的なテロではなく、山上は保守的な考えの持ち主であり、単に反社会的な団体に対する被害者家族の復讐によるものであった。まだ私たちは異常性が続く社会にいる点を忘れてはならず、社会が安定して良い政治が行われていれば、こんな過激な事件は起きないはずである。

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