高齢者の困難事例について。
この問題は保健、医療、福祉などの専門職が日常的に直面し、対応に苦慮する現実の課題である。これらの事例は本人自身の問題はむろん、家族関係、近隣住民との関係悪化などがあるが、個別には多種多様の複雑な問題を内在する。
このような事例は特殊に思われるかもしれないが、実際には身近に存在する。介護専門職や医師が日々遭遇する課題であるにもかかわらず、明確な定義はない。1980年代に複数の疾患や問題を抱える症例を困難事例と呼ぶようになり、統計によって異なるが、現在では約半数が該当する。原因別に個人的要因、社会的要因、不適切な対応の3項目に分類すると、理解し易いが、複合的に重なって発生し、その結果困難性が増幅する。
例えば、高齢者夫婦で生活している場合、妻がアルコール依存症で、別居家族の協力が得られない事例が発生し得る。家族関係が悪い事例や、介護サービスの導入により生活リズムが乱れ、結果としてサービスを拒否する事例もある。経済的に困窮する一人暮らしの高齢者や、認知症のため日中独居中に行方不明になる事例などは普通に見られる。
医療の分野では、患者自身の問題、生活環境、家族や介護者の状況、そして支援する専門職との関係性が重層的に絡み合っている。介護とは切り離せない部分もあり、一筋縄ではいかない。
患者自身の問題としては、病識の欠如、意思決定能力の低下、攻撃的行動、認知障害、依存症、不安障害などが主な要因となる。生活状況として、独居、経済的問題、身寄りがいない、キーパーソンの不在、被虐待者、ゴミ屋敷の住人、繰り返す救急受診などが挙げられる。
家族を含めて介護者に関する問題としては、治療方針や価値観のズレ、意思疎通の困難、介護放棄、虐待などが存在する。また支援する専門職と患者の関係性においても、信頼性の欠如、意思疎通の困難、治療・ケアの受け入れ拒否、要求過多、苦情・ハラスメントなどがある。さらに専門職自身の状況として、経験不足、スキル不足、業務過多などの課題も影響する。
これらの要因がいくつか絡み合うので、困難事例は一層難しい。とくに家族関係の問題を取り上げると、家族間のコミュニケーション不足や価値観の違いが原因で、サービス利用に関する意見の不一致が生じる。また家族内の対立や不和は高齢者の精神的健康に悪影響を及ぼし、結果的に支援が困難になる場合が多い。
虐待には身体的、心理的、経済的虐待などがあり、多くは家庭内のストレスや介護者の負担によって引き起こされる。身体的虐待には暴力行為や不適切な拘束があり、心理的虐待には侮辱や無視、恐怖心を与える行為や、経済的虐待には高齢者の財産や年金を不正に利用する行為が含まれる。
それぞれの専門職は、個別のケースごとに適切な対応策を模索し、支援を提供する。具体的な対応策としては、まず信頼関係を構築する点が第一である。患者やその家族とのコミュニケーションを深め、信頼を築くことで、問題の根本にアプローチし易くなる。
しかし、これらは高齢者の日常生活そのものではないだろうか。