持家か賃貸か。


 この問題は昔から広く議論されてきた。人生ではかなり重要な問題だが、それぞれにメリット・デメリットがあるので、どちらか一方が優れていると断言はできない。その一つの証拠として、この40年間持家と賃貸住宅の割合の推移を見ても、6対4を示し、全体的に大きな変動はない。持家を購入する第1位の動機は、「家賃を払い続けるのはもったいないから」だが、賃貸派は「高額で長期の住宅ローンを組むのは心理的な負担が大きい」とする理由が最も多い。
 コロナ禍前の2019年の建築着工統計調査によると、新設住宅着工戸数は90万5千戸で、そのうち持家は28万9千戸、貸家は34万3千戸、分譲住宅は26万8千戸を示した。持家と分譲住宅はほぼ半数ずつで、両者の合計は55万7千戸の61.5 %を占めた。
 現在、わが国の人口は減少を続けており、近い将来1億人を切ると予想される。一方、住宅の総数は増加しており、住宅のストックが過剰であるにも関わらず、作っては壊し、毎年新しい住宅が建て続けられている。
 約15年後には約3戸に1戸が空き家となり、かなり深刻な事態が予想される。マンションを含めて持家は自分が住まなくても所有しているだけで、固定資産税や維持管理費用などが必要である。これまで資産や投資のつもりで購入しても、負債になりかねない。
 住宅過剰社会と言われて久しく、全国に空き家、空地、空室が散在し、粗大ゴミ化し、資産にもならない可能性がある。今後この傾向は一段と拍車が掛かるが、それでも住宅・建設業者などには住宅を作り続けて、収益を確保する体質がある。
 それなら、住宅事情は良好だろうと思われるが、賃貸にしろ持家にしろ、住宅は全体に狭く、窮屈で、高価である。住宅は過剰であっても、顧客のためというよりも、景気対策を最優先し、品質の悪い新築住宅を大量供給してきた住宅政策の結果である。
 逆に言えば住環境は政策によっていくらでも変えることができる。こんな状況では二者択一の選択などどちらでも良いが、人生をどう考えるか、生活の質をどう考えるか、財産をどういった形で残すか、こういったことが多少参考になるかもしれない。
 常識でも理解できるが、年齢を重ねるごとに、持ち家比率が上がり、60代では9割が家を保有する。34歳以下の年齢層では51.%であったものが、40代後半で80%、60代前半で90%を超える。そして、最終的には大半は家を購入するということになるが、持家と言っても、約半分はマンションである。
 戸建ての持家の場合は老後も惨めである。固定資産税、場合によって都市計画税、時折高額な維持費や修繕費が必要で、将来は富裕層しか所有できない。住宅政策は成長のカギを握る重要なテーマといってよいが、もはや時代遅れである。将来一生涯、賃貸という人が増えてくる可能性が高く、政府と自治体は本腰を入れて良質で廉価な賃貸住宅の整備を行う必要がある。

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