多剤併用(ポリファーマシー)について。

 この問題は単なる医療の過剰供給ではなく、社会的倫理に関わる深刻な課題である。長年にわたり、「薬漬け」として非難されてきたが、その実態は依然として改善されていない。
 医療費の削減が叫ばれる一方で、医療産業の発展という名のもとに、軽症の高血圧、糖尿病、骨粗鬆症などでも複数の処方するのが学会の推奨でもあり、エビデンスに乏しい薬剤の処方は、とくに高齢者の健康を脅かすだけでなく、医療費の増大を招く。
 薬剤数が疾患の数に比例する現状は、患者にとって重大なリスクをもたらしており、多剤併用による副作用や相互作用、服薬ミスの増加は、彼らの生活の質を大幅に低下させている。
 2014年の統計では、10~14種類の薬剤を処方されている高齢者が20%、15種類以上を処方されている人は7%もいた。これは多剤併用の問題がいかに深刻であるかを示している。
 日本老年医学会と日本医師会が6種類以上の薬剤服用を多剤併用と定義しているが、実際には5剤以下に抑える点が副作用を防ぐ上で最も効果的であるとする。厚生労働省は、多剤服用の中でも害をなすものと説明し、単に薬剤数が多いという意味ではなく、薬物有害事象のリスク増加、服薬過誤、服薬アドヒアランス(服薬状況)の低下などの問題につながる状態とみなす。しかし、日本ジェネリック製薬協会は多剤併用を悪いことではないとしており、このように相反する見解は問題を複雑化している。
 05年に日本老年医学会から出された高齢者の安全な薬物療法ガイドライン以来、この弊害が注目されてきた。12年には有害事象の例が多く紹介され、その要因として複数診療科の受診が挙げられた。
 各科で5種類ずつ処方されると、すぐに10種類、20種類の薬剤となり、薬剤を整理する人がいないことが浮かび上がった。現在は調剤薬局などが介在するため、そういった事例は少なくなっているが、根本的な解決には至っていない。
 一方、サプリメントの服用も問題である。20代でも3割の人が服用しており、50歳を超えると約半数の人が服用する。医療用薬剤だけでなく、その種類が増えるほどリスクが高まる。
 さらにサプリメントを服用しているのを医師に話していない人は7割に上ると言われ、処方薬と合算するとかなりの数になり、それだけリスクが高まる。多剤併用は大な健康リスクで、単に薬剤数を減らすだけでは解決しない場合もあり、高齢者一人ひとりの病態に合わせた適切な薬物療法の提供が求められる。

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