予期されたハプニングか?
2022年10月23日に開催された中国の第20回共産党大会閉幕式の場で、習近平・総書記の隣に座っていた前任の党総書記・胡錦濤氏が連れ出されたと思われる映像が瞬時に世界的な注目の的となった。
すべてが演出とする見方もあるが、内部分裂とも受け止められかねず、国際社会に見せたくない場面だったに違いない。党大会は最も重要な政治イベントで、指導体制や基本方針を決める最高意思決定機関であり、最高指導部を礼賛するため注意深く準備されたシナリオに沿って進行する。
党大会中の退席は極めて異例な上に、胡氏が退席を拒むようなしぐさが見られたことから、習氏への権力集中に不満を示したため、強制的に連れ出されたなどの臆測も広がっている。
国営の新華社通信は「体調不良」と短く触れたが、海外のメディアは詳細な映像を公開し、様々な憶測を含めて報道した。同氏は体調不良で退出したというのが公式の見解であ
るが、少なくとも急性疾患を発症して、慌ただしく付き添われて退場した光景からはほど遠い。
また同氏が持病を持っていて、不調を訴えて退席しようとしたのであれば、近くの人が駆け寄り、救助の行動をとるはずだ。彼らは同氏の方を振り向きもしないで、じっと前を向いたままの様相は不自然である。
最初に動いたのは胡氏の左隣の序列3位の栗・全国人民代表大会委員長で、胡氏の前の卓上に置かれた赤い表紙のファイルを、栗氏が取り上げようとした。これに同氏は抵抗して言い争いになりかけた。
その時習氏が壇上左手に向かって目配せをすると、白髪交じりの男性が小走りに寄ってきた。男性は孔・中央弁公室副主任で、身辺警護から日常スケジュールを管理する直轄部門のナンバー2である。
孔氏は習氏から耳打ちされると、慌ただしく走り去った。しばらくすると、長身の胡氏の警護をしている中央警衛局の職員が習氏の所へやって来た。習氏から耳打ちされると、職員は栗氏からファイルを受け取り、胡氏の右腕を抱えて強引に立ち上がらせ、舞台袖へと連れ出した。
退場する際に胡氏は興奮気味に習氏に語り掛けたが、表情を変えず軽くうなずくだけだったが、その右隣の今期かぎりで引退する李・首相の肩に手を置いて、「ご苦労さま」と言わんばかりの様相が印象的であった。胡氏の怒りを含んだ表情といい、総書記の習氏の窘めるような表情といい、一連のドラマは異様だった。
党の関係者によると、ファイルには、この日の朝に選出された中央委員の名簿が入っていたという。名簿には胡氏が推薦したメンバーがほとんど入っていなかった。
これを見た胡氏は、自らの意に反する最高指導部人事になることを察し、異議を唱えようとした。謙虚に振る舞う胡氏が大舞台で大観衆の前で、やむを得ず大胆な行動に及んだのはそれなりの意味があるのかもしれない。