映画『新聞記者』 感想

怖い。

それが一番の感想でした。現代日本を舞台に、政治と報道の暗部に鋭く切り込んで話題になっている本作には「このディストピアは自分の生きている国なのか」という疑念と恐怖を強く呼び起こされます。
誤報の汚名を着せられて命を絶ったジャーナリストの父をもつ新聞記者・吉岡(シム・ウンギョンさん)と、敬愛する先輩を政府の陰謀によって失った内閣情報調査室に勤める男・杉原(松坂桃李さん)が自分たちの命をかけて真実を白日の下にさらそうと画策するサスペンス・ストーリーに、始終自分の心臓の鼓動が高鳴っているのを感じました。

ストーリーはフィクションですが、事実を基に作られています。多少なりとも世の中に関心を持つ人であれば思い当たるような名前や事件が登場して、自分の知る世界が足元から崩れてしまいそうな真実味を感じさせられました。それが疑念と恐怖を呼び起こすと同時に、きっとこの作品を世に届けようとした人達が抱いているであろう、強い危機感を伝えてきます。
大学時代、現代アートの講義で教授が「優れた芸術作品は社会への問題提起になる」と言っていたことを思い出しました。そういう意味で、本作はただ商業的に消費される娯楽ではなく、使命感に突き動かされた芸術の側面を強く持った作品です。

また、本作が優れたサスペンス・ストーリーとして成立しているのはW主演のひとり、松坂桃李さんの熱演が大きな要因と感じました。
杉原は元外交官で内閣府勤務という日本でも選りすぐりのエリートでありながら、喜び悲しみ悩み苦しむ普通の人間として描かれています。物語の真実味を損なわない繊細な息づかいや視線の動きが表す彼の動揺や悲しみに、強く感情移入させられました。
対するもうひとりのW主演、シム・ウンギョンさんが演じる新聞記者・吉岡の力強くニュートラルなキャラクターがブレずに物語の本筋を貫いているので、ハードな展開にも希望を持って観続けることができました。

最後の最後、究極の選択を迫られた杉原が息の詰まるほどの苦悩の末に出した答えはなんだったのか……周囲に観た人がいたら、感想を聞きたくなってしまう作品です。


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