映画『メランコリック』試写感想
完璧な人生なんてない。
それは分かっているけど、誰かの上には立っていたい。だからどこかで他人を見下して生きているし、他人に見下されないように自分を偽って生きている。自分が軽んじられたら、腹が立って拗ねたりもする。本当は胸を張って生きたいから、明日が来るのが憂鬱で仕方ない。
そんな誰もが共感できる劣等感を、“東大卒のフリーター”という世間に後ろ指さされる肩書きに苦しむ主人公・和彦(皆川暢二さん)に乗せて描く愛すべきヒューマンドラマが、映画『メランコリック』です。
胸を張れない自分に好意的に接してくれる女性・百合(吉田芽吹さん)がきっかけで和彦は銭湯でアルバイトを始めますが、その銭湯はオーナーが抱える借金のカタの人殺請負に使われているという裏のある場所でした。同じ時期に雇われたアルバイトのチャラい男・松本(磯崎義知さん)はなんとプロの殺し屋。和彦は百合と過ごす幸せな日常と、松本と死体を片付けて過ごす非日常の間をさまよいます。
死体を見た和彦が何度か「なぜこの人は殺されたんだろう」と劇中で呟くのですが、それは自分の人生を見つめる和彦の「自分はなぜ生きているんだろう」という問いにも聞こえました。その鬱屈の先にある、コミカルとシリアスの絶妙なバランス感で描かれた和彦と松本の覚悟を決めた行動には、きっと日頃の憂鬱が吹き飛ばされるような爽快さを覚えると思います。
また、小西(浜谷康幸さん)や松本による戦闘シーンの軽快な動きは、まるでアクション映画を観ているような気持ちにさせられました。松本を演じる磯崎さんが考案したという格闘技や軍隊式戦術のメソッドが織り込まれた「タクティカル・アーツ」という演出手法により、臨場感のある戦闘が低予算のインディーズ映画でありながら実現されています。
あと、私が個人的に好きだと思ったのは、所々にニヤッとしてしまう要素があることです。本筋で語られる題材や心理はやや重たいのですが、その間を埋めるようにちょっと面白い場面があって、不思議とセンシティブにはなりません。毎度夕食を作り過ぎてしまう和彦の母、母の料理を毎度同じように褒める父、成り上がった同級生の見栄を張るような行動、和彦と百合の状況を表すように流れるベートーヴェンの「悲愴」など、思わずニヤッとしてしまいます。
裏の世界を探るミステリー、軽快なアクション、クスッと笑ってしまうコミカルさ、若者の心の変化と初々しい恋愛、そして男同士の友情が絡むヒューマンドラマ……様々な要素を持ちながらも、根幹では「幸せに生きるとはどういうことなのか」を穏やかに問いかけられたように思います。殺人請負というダークな題材を扱いながらも、観終わったら登場人物たちが愛おしくなるような作品です。
8月2日からアップリンク渋谷などで公開されますので、ぜひみなさんもご覧ください!