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勉強メモ:短歌表現のひとつの型

現代の短歌について、おもしろく分析するnoteを読んだ。短歌ゼロ歳児のわたしがお世話になっている人のnoteだ。読んで思ったことをメモしておく。

次の短歌から、現代の短歌表現の型をひとつ抽出する手際がおもしろかった。

あっ、ビデオになってた、って君の声の短い動画だ、海の

千種創一『砂丘律』より

「嫁さんになれよ」だなんてカンチューハイ二本で言ってしまっていいの

俵万智『サラダ記念日』より

抽出された短歌表現の型を、わたしなりに書くとこうなる。ちなみに小説などの分析で「語り手」と呼ばれる概念は、短歌の分析だと「(作中)主体」と呼ばれるようだ。

  • 【引用された発話】+【引用の標識】+【主体による発話者への語りかけ】(全体が口語体)

驚いたことに、先週わたしが書いたnoteに口語体の例として取り上げた短歌も似た構成だった。(すこし当てはまらないところもあるけれど。)

ひかりってめにおもいの、と不機嫌だごめん寝てるのに電気つけちゃって

山田航『寂しさでしか殺せない最強のうさぎ』より

この表現の型に当てはめて書くと、こうなるだろうか。

  1. 【あっ、ビデオになってた、】+【って】+【君の声の短い動画だ、海の】

  2. 【「嫁さんになれよ」】+【だなんて】+【カンチューハイ二本で言ってしまっていいの】

  3. 【ひかりってめにおもいの、】+【と】+不機嫌だ+【ごめん寝てるのに電気つけちゃって】

もとのnoteでは「発話+口語体の語り」として型を抽出していた。それをややこしく書き変えたのは、わたしの積極的誤読にもとづく。もとのnoteに「発話を具体化する歌」と書かれていたのを、擬似的な会話を構成する歌とわたしは読み取った。

いちおう「積極的誤読」の根拠を示しておく。

1の歌には「君」という二人称がある。主体は「君」へ語りかけていると言えそうだ。2の歌の「~てしまっていいの」は主体の問いかけだ。3の歌も、「不機嫌だ」という描写を除けば、主体は語りかけていると言えそうだ。つまりどの歌も、かりに独り言だったとしても、主体が語りかける体裁をとっている

これらの歌だと、引用された発話は主体の語る文と対等でない。主体の語る文に引用節として埋め込まれている。たとえば「もう浮気しないって約束したじゃん!」は、1つの複文であって、2つの単文ではない。これと似ている。引用された発話は従属節として主体の語りに結果的に「従属」する、ともわたしには思える。(この辺は、もとのnoteと意見が少し違うようだ。)

引用された発話で始まること。つまり主体とは違う声で一首が始まること。この型のポイントはこれだと思う。ただし1と3の歌の場合、一首が始まるところでは、はっきり引用だとわからない。引用節が主体の語りに「従属」することを曖昧にする手法にも思える。(とはいえ、引用節はもともと従属節としては従属度が低い。)

この型に当てはまる短歌が他にもありそうなのだけれど、短歌ゼロ歳児のわたしには見つけられなかった。作品を読んでいくうちに見つけられたら追記しようと思う。 

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