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日本の「庭」とヨーロッパの「庭園」②


高3のときの修学旅行レポートを30年経っておそるおそる読み返したら、なんと、30年後の私の知りたいことが、30年前の私によって丁寧に綴られていました。
自分が進歩している気がせず驚くばかりですが、せっかく発掘されたのでnoteに転載します。


第1章 語源による比較

 現代ヨーロッパの諸国語において、「庭園」に相当する語は、ゲルマン系諸語 ※ で表されるのが一般的である。それらの意味はほぼ同一で、「囲い地」を指しているのである。これは、共同体の生活において、家畜を飼育する場であったのだろう。

 これに対して、日本語の「ニワ(ニハ)」はどうだろうか。この語は、音節ごとに分割して考えることができる。「埴生」「埴輪」などに用いられる「ハニ」という音が、陶器をつくる黄赤色の土を表すことからも推測できるように、「ニ」は「土」を意味することが明らかになっている。また、「ハ」とは「場」のことである。利根川付近の方言で「かまど」を「ウチニワ」と呼ぶことからも、「ニワ(ニハ)」の元来の意味が「土の場」であることを確認できるだろう。石や樹木のない「土の場」は、神を祀ることを目的としたものであった。後世、この目的が影を薄くすると、広場として発展することになる。

 このように、庭園史の初期段階において、実用的、宗教的という根本的な差異が生じていたことは、注目に値するであろう。


第2章 風土的要因による比較

 日本の庭は、必ずしも自然の模倣ではない。縮景法・象徴法・写意的仮託法など、様々な手法によって庭園が造られているからである。しかし、当然のことながら、日本の自然風景を愛でる心が造園の前提となっている。
 ヨーロッパの庭園は、近世に風景式庭園が発達するまで、長期にわたって主流を成していた庭園を見ると、明らかに自然の模倣ではない。だが、やはり自然を愛好する心がなければ、庭園文化は成立し得なかっただろう。
 従って、庭園を理解するためには、まず各々の自然景観を観察しなければならない。

 自然景観を決定する要因のひとつに、気候が挙げられる。気候は、自然風景を通じて間接的に庭園に影響を与えるだけでなく、自然に対する人々の意識にも、直接影響を及ぼしている。

 第2章では、これらの風土的要因から、ヨーロッパと日本の庭園を比較していくことにする。


第1節 地理的条件

 「ヨーロッパ」とは、ユーラシア大陸のウラル山脈以西を指す語である。面積は490万㎢で、地球上陸地の僅か3.6%を占めるにすぎない最小の大陸である。中部をほぼ東西に走るカルパティア・アルプス・ピレネーなどの峻険な山脈を除いて、全体的に緩やかな起伏をもつ丘陵状の平野が広がっている。そのため、河川も比較的緩やかに流れている。世界的な視野でみれば広大とはいえない空間に比例して、ヨーロッパでは自然地理上の巨大さや極端さが見受けられず、デリケートで威圧感のない自然、と概括できるであろう。特徴のないところが、ヨーロッパの地理上の特徴なのである。

 日本列島は南北に長いが、幅が非常に狭い。このような国土に急峻な山岳が重畳するため、日本の地理は実に変化に富んでいる。山脈は河川に浸食され、複雑な形態になっている。河川は短く、特に上流の急なさまは世界でも有名である。豊富な降水と複雑な山岳地形のため、日本では小規模ながら多数の滝もみられるのである。また、豊富な降水によって、古い地層にある花崗岩系または水成岩系の岩石が激しく風化し、巨大な岩層としてではなく断片的な岩塊となって、自然風景の添景を成している。

 幅が極めて狭い日本の国土は、多くの地域が海に面している。従って、日本人は諸外国の人々よりも、海と山とを同時に身近な存在として知ることができたのである。
 日本の海岸線は、なだらかな砂浜や荒々しい磯など変化に富み、複雑な地形としてはリアス式海岸もみられる。また、日本の国土は大小3500余りの島々から構成され、海岸から見渡すことのできるものも多い。それらは景観に変化を与え、殊に天橋立・松島・宮島は日本三景として称えられている。

 このように、複雑な景観が、日本の地理上の特色といえるのである。

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※ garden(英)・jardin(仏)・giardino(伊)・Garten(独)など。





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