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花の言葉を識って

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 ピーター・パンクスは銀髪の老河童の様な頭を抱えていた。あの可愛い可愛いタイガーリリーが逢いたい、と文を寄越したのである。
 いったい、どうしたものか。こんなしょぼくれた老人の姿を見たら、タイガーリリーはショックで倒れてしまうに違いない。
 嗚呼せめて。もうちょっとシュッとしていた若き頃に出会えていたのなら!
 胸キュンを通り越し、動悸がする。ピーターはナースを呼んで薬を飲ませて貰った。落ち着いてくると、彼は寝台ベッド横の棚の引き出しから桜色の封筒を取り出し読み始めた。便箋は桜の花で彩られている。


 【親愛なるピーター・パンクス様

 春爛漫のうららかに、窓の外で鶯がご機嫌そうに唄っています。貴方様にも聴こえていると思います。いかがお過ごしでしょうか?

 先月のサァクルの会報の表紙。貴方様が描いて下さった姫百合の中の虎の可愛らしい絵。鮮やかなオレンジ色の百合と黄色と黒のちいさな虎。ファンタジー!ロマンティック!私、本当に感動いたしました。きっと私の為に描いて下さったのだと思いますが、そう思うのは、図々しいかしら。
 でも、きっと、そうですよね? 
 私へのプレゼントに描いて下さった、そう思うことにいたします。有り難う御座います。
 今では病気に罹って仕舞いましたが、JK時代にはまだ元気で、初恋の人はパンクスでした。だから、貴方様のペンネーム、ピーター・パンクスには運命を感じたし、それ抜きにしたって、貴方様の様々の作品に感銘を受けました。勿論、サァクルのメンバーの皆様の作品にもです!
 叫ぶ痴人の会、なんて可笑しな名前だけれど、皆様の作品もとても面白く拝読しております。
 私達は皆一様に病人であると云うのに、会報を読んでいるとそんなことは全く感じません。皆様は、寧ろ、自然の中のサナトリウムで、より感覚を研ぎ澄まし、芸術の神とより親密に繋がっている様に感じます。
 とは云え、此処に(私にとって、最後の場所であるこの療養所サナトリウムは、聖域サンクチュアリにしてホスピスです)来たばかりの頃には、大層落ち込んで悪い病がさらに悪くなったりいたしました。とても苦しい時期で、早く死にたい、いっそ誰か私を殺してくれはしないか、なんて物騒なことを思ったりもしました。
 でも、そんな時に、看護師の金指さんがサァクルの会報を持って来てくれたのです。叫ぶ痴人の会。なんと強烈な名前。そう思いましたが、皆様が病と闘いながらも、しっかりと生きていらっしゃることが、それぞれの作品から伝わって来ました。金槌で頭を叩かれた様な衝撃でした。

 私も何か創ってみたいと思いました。でも、絵も下手ですし、詩を書いたこともありません。母に相談すると、ポエトリー・リーディングはどうかしら?と云うのです。私は高校生の頃、英語部だったのですが、文化祭でシェイクスピアの詩を朗読したことがありました。それで、イギリスに留学したことのある母に勧められ、ウィリアム・ブレイクの「The Tyger」を朗読してみたのです(私は寅年なのです)。
 音声では、サァクルの会報には参加出来ませんが、ピーター様とメンバァの皆様に聴いていただけるなら、嬉しいです。勇気を出して、音声データを送りますね。
 来月の会報も楽しみにしております。
 季節の変わり目です。どうかご自愛くださいませ。

 かしこ タイガーリリー 】


 そうだった。最初にファンレタァを貰って、鼻血が出そうなくらい嬉しくて、彼女の為に虎と百合の絵を描いたのだ。


 療養所サナトリウムは、主にメンタルシックの患者が長く入院している。最寄り駅まで車で一時間以上かかるド田舎の山間、森の中に在る療養所サナトリウムの敷地はだだっ広く、メンタルシックのみならず、長期療養の必要な患者、中毒患者の更生施設、それから……ホスピスも、離れて建っている。しかしこの長閑過ぎる静かな環境では、幾ら離れて建っていようとも、更生リハビリ中の患者の叫び声だとか呻き声だとか鳴き声だとかが、森の住人たちの声に混じり時折聴こえてくる。
 「叫ぶ痴人の会」、と云うふざけた名のそのサァクルには変態趣味の会員が所属し、療養所サナトリウムにおける不平不満や、満たされぬ妄想的願望を詩や俳句や短歌にして発表するサァクルであり、芸術活動と云う名において惚けボケ防止的活動をしている。メンバァは、確かに痴人である。
 ピーターはこのサァクルの主催者であり、永遠のパンク少年を気取って、ペンネームはピーター・パンクスにした。シド・ヴィシャスと誕生日が同じであること、若き日の数々の武勇伝が自慢である。此処では古株であり、何度か(も?)出入りしている。沢山の出会いと別れを繰り返して来た。森田療法を採用しているこの療養所サナトリウムの生活は規則正しく牧歌的且つ晴耕雨読的である。希望する者は、農作業、木工作業、調理、掃除や洗濯なども手伝う。各施設には図書室や音楽室、視聴覚室があり、学校の様な活動サークルもある。

 件の彼女のポエトリー・リーディングは、舌足らずで発音も決して上手くはなく、然もつっかえながら、ハスキーヴォイスは震え、掠れ、不明瞭であった。しかしその拙い朗読は、メンバァとピーターの琴線に触れた。
 ピーターは、タイガーリリーのポエトリー・リーディングへの感想として、一首読み、翌月の会報の作品とした。


 チグリシアの密かなるさけび摘みとりし  花の願いを識る春の宵


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 次の手紙は、兎の封筒とひよこの便箋だった。

 【親愛なるピーター様

 私のファンレタァにお答えになる様な、そんな短歌に、どぎまぎしてしまいました。これは、思い上がりなのでしょうか? 
 私はもう直ぐ二十二歳になりますが、実は、彼氏いない歴も二十二年です。男の人とつきあうことの無い儘、私は死んでゆくのです。つまり、処女おとめの儘。
 まだ元気だった頃に見た戦争ものの映画などで、惹かれ合う若い男女は、一夜限り、愛し合ったり、合わなかったり。私は、體で繋がらなくとも心が繋がっていれば良いじゃないの、と思っておりました。その時には子供過ぎてピンと来ませんでしたが、好きな人に抱かれると云うことは、只、Hなだけでは無いのですね。
 いつか好きな人に抱かれることを考えると、空恐ろしく、無理無理!なんて思ってしまいました。
 けれど、病気になってからは……。
 恋愛をして来なかった自分を、殴りたくなりました。
 〈馬鹿!どうしてあの人に告白しなかったのだろう?〉
 〈馬鹿!近所の男子校の生徒のラブレターを、読みもせずに突っ返すなんて、最低!〉
 後悔の日々。自分を責めたり。世界を呪ったり。本当に苦しかったです。

 それでね。馬鹿みたいなんですけど、私、勇気を出して、ヌードを撮影して頂いたのです。此処に来る前に。私が罹ったのは不治の病。これからどんどん悪化してゆくばかり。だから。少しでも若く、少しでも美しいうちに。そう思ったのです。
 何となく父親には云えませんでした。でも、母親は理解し、協力してくれました。写真家とメイクアップアーティスト、スタイリストも探してくれました。
 秘密の花園みたいな美しい初夏の庭での撮影は、私の短い人生の中でも最もドキドキする出来事でした。 
 自分でも吃驚するほど、綺麗に撮って貰えました。

 恥ずかしいけれど、ピーター様に、見て戴きたいのです。
でも。そんなもの、見たくない、迷惑だ、と仰るのでしたら、見なくて良い様に、私、考えたのです。金指さんが教えてくれたのですが、療養所サナトリウムのイベントを増やすべく、イースターのお祭りがあるそうなのです。それで、エッグレースやイースターエッグ探しがあるんですって。
 私のイースターエッグを見つけて下さい。その卵の中にヒントを入れておきます。そのヒントから、私の写真を探してください(嗚呼、恥ずかしい。でも、見て戴きたいのです)。
どうかピーター様が鍵を見つけて下さいます様に。いえ、見つけて下さいません様に。

かしこ タイガーリリー】


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 イースター。春分を過ぎて初めての満月を迎えて最初の日曜日。
 療養所サナトリウムでは初めてのイースター祭りが催された。重症でない患者たち、患者の家族や友人も参加出来る。運動場の一角にはバザーが開かれ、屋台も出ている。
 皆、兎の耳を頭に装着していた(老河童のピーターもである)。普段は恐ろしいキャラの看護師も少し可愛く見える。否、そんなことはどうだって良い。ピーターはミーティングが終わった瞬間、如何にも間抜けなひよこ色の兎耳うさみみをほっぽり投げた。さっさとタイガーリリーのイースターエッグを探さねばならぬ。他の誰にも渡してはならぬ!双眼鏡をぶら下げ、右ポケットに電子辞書、左ポケットに老眼鏡を携えて、老体に鞭を打ち、よろよろと走り出した。
「あらあら、飛田さんたら張り切っちゃって。転ばないでね!」
ナースたちはくすくす笑いながら見送った。
 他の者たちも可愛らしいちいさな籠を手に、のんびりと出発した。今日は作業は休み。ホスピス以外の施設の、どの庭に行っても良い特別な日。どの庭も美しく整えられており、ちょっとした遠足気分だった。
 ……無い。無い。これじゃ無い!ナースたちが庭の彼方此方に隠しておいた目にも楽しい色とりどりのイースターエッグを次から次へと見つけた。しかし肝心のタイガーリリーの卵が見つからない。百合が沢山植わっている庭にも行ってみたが、其処には卵はひとつも無かった。初夏にあやめが咲く野っ原にも行ってみた。やはり、無い。そうこうしている内に昼食を告げる鐘が鳴った。午前中、ずっと探し続けたがタイガーリリーの卵が見つからない。
 大変だ、他の誰かが彼女のヌード写真を見つけてしまったら!落ち着け。落ち着くんだ、ピーター・パンクス。
 食堂に行くと、春らしく色とりどりの花が飾られ、卵料理がメインの昼食が供されていた。そんなに腹は減っていないと思っていたが、激しく動き回ったのであっと云う間にオムライスを平らげた。食後の珈琲を飲んでいると、ナースの金指さんがやって来た。彼女の兎耳はピンクだった。にっこり笑うと口パクで何か云っている。
 (トラ!ト、ラ!トラ!)
 ピーターも口パクで訊き返した。
 (トラ?)
金指さんはうんうん、と頷き、今度はぴょん、と跳ねてピーターに尻を向けるとふりふりしてみせた。
 (お尻?)
また口パクで訊くと、彼女は頭を人差し指でツンツンして(考えて!)と云うと行ってしまった。
 虎の、お尻……ケツ?虎穴に入らずんば虎子を得ず?いや、違うな。
 午後は運動場でエッグレース。スプーンに卵を乗せてかけっこするらしい。運動会宛らの放送が聞こえて来た。参加者……体力的に問題のない者たちと、ナースや医師たち、招待客の盛り上がる声も。
 しかしピーターは一人、タイガーリリーの卵を探し続けた。疲労困憊した彼は、ホスピス近くまで来ていることに気づいた。この棟の辺りはとても静かだ。近寄っては不可ない。だが今日は特別な日なので大丈夫だろう。思い切って今まで入ったことの無い場所に足を踏み入れた。ホスピスの中庭には鯉が泳ぐちいさな池があり、茶色く変色した丸い睡蓮の葉に混じり、若々しいみどりの丸い葉が見えた。きっと夏には美しい睡蓮が咲くのだろう。池の前にはベンチが何台か置かれていた。ピーターはベンチに座り休憩することにした。全身でため息をつくと、一気に老け込んだ気がした。
 睡蓮は、英語でウォーターリリー。リリーのことばかり想っているな、と彼は苦笑した。どうかしている。リリー。百合。タイガーリリー。虎百合。虎。金指さんは「トラ!」って云ってたな。それからお尻を振って。とらのおしり……とらのおっぽ?ピーターは膝を打った。重たい腰を上げて、運動場に戻り、園芸サァクルの青木原さんを探した。彼はこの施設内のほとんどの植物を知っている植物博士だ。青木原さんは兎耳どころか何故かバニーガール姿で苺大福を売っていた。「虎の尾?ああ、サンセベリアね。サイケの館(通称)の職員用の外の喫煙所の目の前にいっぱい植わってるわよ。天然空気清浄機だからね」

 虎の尾(サンセベリア)の密集地。黄色と黒、虎模様の卵を見つけた。この植物は、空気を清浄にすると云う。金指さんは相当分かり易いヒントを与えてくれていたのだ。
 卵はプラスティックで出来ており、虎の模様はペイントされ蓋の部分は透明のテープで留められていた。この中にヒントがあると、手紙に書かれていたが……。胸が逸る。全身に鼓動が響く。見かけに寄らず器用なピーターの指は上手く動かない。焦ったい。何とかテープを剥がした。深い息ひとつ。オープンセサミ!其処には折り畳まれたちいさなメモ。

【ティンカーベルに話しかけて 貴方のタイガーリリーより】

 謎解きごっこはいつまで続くのだ!?俺は揶揄われているだけなのだろうか。若い女の子のヌード写真を見たい!と興奮したことは否めない。しかし、仕掛けて来たのはタイガーリリーの方ではないか。振り回され焦らされ、ピーターは疲れて苛々して来た。俺の心は永遠のパンク少年だが、俺の體はおじいちゃんなんだぞ。夕焼け小焼けが山間の村役場の放送で流れて来た。随分、日が延びて来たが、夕方は少し肌寒い。ピーターはタイガリリーの卵を抱えとぼとぼと部屋に戻った。

 それにしても。ティンカーベル、とは誰のことだろう?
 この数日間で、彼の頭頂部のミステリーサァクルは更に拡大してしまった。一人で考えたが全くわからなかった。図書室で「ピーターパン」を探したが、ティンカーベルは出て来なかった。電子辞書で調べてみると、スペルはTinkerbell。分解してTinkerとBell。Tinkerは鋳掛け屋、金物の修理屋、とある。金物。鍋や釜……。其処で躓き彼はまた頭を抱えた。
 そんなピーターに、ティンカーベルは業を煮やしたのか、自ら現れてくれた。彼女はピーターを見かけるや否や、ナース服の尻ポケットに仕込んであった金色の折り紙で作ったであろう紙吹雪を撒き散らし、ピーターの耳にティンシャ(チベタンベル)を鳴らしてみせた。
 煩いなぁ、と思って彼女を見ると、アニメ映画で見たティンカーベルの様にプンプン怒りながら、自分の名札を指差した。「金指」さんである。
 それから、メモ帳を取り出し、何か書き込むと手渡した。

【明日、私は夜勤です。二十四時に視聴覚室。誰にも見つからない様にね】

 恋と冒険は似ている。ハラハラドキドキする。まさか、こんな歳になっても恋が出来ると思わなかった。
 翌日の二十四時。ピーターは音を立てない様、みんなを起こさぬ様、そおっと部屋を出ると、闇い廊下を靴下でスケートした。視聴覚室はみんなの部屋とは別の下の階なので、階段を降りた瞬間、猛ダッシュした。視聴覚室前で既に金指さんが待っていた。ドアを開け、目配せで入れ、と云う。そしてピーターの為だけの真夜中の上映会が始まった。


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【親愛なるピーター様

 初夏の風も光も眩しくなってまいりましたね。いかがお過ごしでしょうか。先月は、私の我儘におつきあいくださり、本当にありがとうございました。まだるっこしい謎解きに呆れませんでしたか?

 ちゃんと謎を解いて、イースターエッグもティンカーベルも探して下さり、一番美しい私を見てくださり、嬉しいやら恥ずかしいやら……でもとても感激しております。 
 六本のピンクの薔薇、ありがとうございます(その意味を母に聞いて、胸が高鳴りました)。なんて可憐でいい香り。男の人に花束を貰うなんて初めてで、嬉し過ぎてここ数日、にやけております(笑)。夢見もとても良いのです。花瓶に活けて数日間、香りを愉しみました。それから母に頼んでドライフラワーにする為に窓辺に吊るしました。私の寝台ベッドから見える位置に飾って貰いました。見る度に幸せな気持ちになれるの。

 貴方様は本当に芸術家なのだと、私は思います。私にはその様な才能はありませんから、本当に羨ましいです。そんな貴方様とのやりとりは恋愛でもしているみたいで、思い切ってファンレタァを出して良かった、と改めて思います。
 最後に、もう一つだけ、お願いがあります。
 一度だけでいいから、貴方に逢いたいのです。
 貴方も、私に逢いたいと思って下さるのなら、またティンカーベルに話しかけてください。

 かしこ タイガーリリー】


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 ピーターは、悩んだが、金指さんに話しかけた。用意周到のティンカーベルは、外出許可の申請用紙(日付記入済み)とボールペンを手渡す。彼はその場で記入した。

 【この日の朝十時、ホスピスの睡蓮の池前】

ティンカーベルは言葉を発さず、またメモを渡した。









【親愛なるピーター様

  先日は会ってくださり、ありがとうございました。 
 タイガーリリーが、こんなおばあちゃんで、貴方様はたいそう驚いていましたね。ショックでしたよね。
 ごめんなさい。
 どうしても、最後に。私と恋愛ごっこ(?)をして下さった、アーティスティックな貴方様にひとめお会いしたかったのです。

 私の命の秒針は、普通の人たちのそれよりもずっと早く進みます。そう云う病気なのです。私が受け入れようと受け入れまいと、病は有無も云わせず残酷で、私はどんどんおばあさんになって行きました。勿論、心も頭もそのスピードについてゆけませんでした。
 私、もうすぐ死んじゃうのです。この世界から居なくなるの。でもね、今とても満足しているのです。
 人間は、とても弱くて、とても強い。意外と儚く、想像以上に図太い。
 生まれて来たこと、生きていること、それ自体が奇跡だと知りました。

 私と出会ってくれて有難う。
 恋をさせてくれて有難う。
 貴方は私よりずっと年上でしたが、少年の心を失くさない、とても素敵な人です。どうか貴方の命を精一杯生きて下さい。貴方の魂を輝かせてくださいね。

 愛と信頼と尊敬をこめて 

 タイガーリリー こと 文月彩芽 】

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 丑三つ時に、ハッと目が覚めた。雨音。カエルの鳴き声が螺子を巻く音に聴こえた。
 何となく、彼女がさよならをしに来たのだと、わかった。 
 きっともう、タイガーリリーは逝ってしまったのだろう。
 朝が来るまで雨は降り続けた。外の音を聴きながら、ピーターは、彼女との想い出を、キャンディを大事に味わう様に、ゆっくり時間をかけ、大切に思い出す。そう、初めから仕舞いまで。
 いつの間にか雨は止み、空が、明るんで来た。ピーターは起き上がり、そっと、庭に出た。



〈了〉




 ぬりくぶーさんのこの記事にインスパイアされて、書きました。