例えるなら、人生どん底の時にたかが恋の歌をうたうこと
諸々、滞っている。結構、切羽詰まっている。目標の読書も進まず、でも書くことも今年の目標なので、今日は書く。
それにしても、自分の作詞クオリティーに腹が立っている。忙しかったり、運が悪かったり(今年本当にそういうことが多い!)、疲れていたり、プレッシャーがあったり、そもそもお題にいまいち納得できなかったり…そりゃいろいろなシチュエーションがあるだろう。でも締め切りは待ってくれないので、そこに向かってとにかく書く。今までも書いてきたのだから、自分でも「ある程度」の合格ラインはわかっている。それなりの仕事はしているつもり。でもやっぱり、ここ半年はクオリティーのばらつきが目立つ。(と、自分で感じている。)自分に腹が立っている。
私は、人に相談されたときは絶対にこう言う。「無理して書かなくていい」と。これは本心で、辛いのに書いたって、いいものは生まれないと本気で信じている。根性論なんて時代錯誤もいいところだと、真剣に思っている。
それなのに、自分の中には理想がある。どんな状況でも、きっちり仕事をすること。これを勝手に美学としている。そして、その美学をもっともよく表している歌がこれだ。
念のため言うと、リアルタイムでは聞いていない。ちあきなおみさんの「喝采」は1972年に発売された曲。私が知ったのは、コロッケさんのものまね。だから小学生か中学生だったころ、コロッケさんがものまねしていた「喝采」がこんな悲しい曲だとは露知らず。大人になって、おそらく作詞を始めてから歌詞を知ったと思う。
この「喝采」の主人公は、照明と喝采を浴びながら、歌っている歌手。ステージの幕が開いて、恋の歌を歌う。もちろん、恋の歌をバカにしているわけではないけれど、言ってしまえば「たかが恋の歌」なのだ。大事な人との死別を経験し、悲しみのどん底にいるひとりの人間にとっては、恋なんていまはどうでもいいこと。それなのに、明るく恋の歌を歌うんだろう。そこに歌手としてのプロ根性と、人生の悲哀を強く感じる。本当に素晴らしい歌。
そして、「喝采」とセットで思い出してしまう曲がもう一曲ある。2014年に公開された「ジャージー・ボーイズ」という映画をご存じだろうか?60・70年代にアメリカで活躍したフォーシーズンという音楽グループの軌跡を、彼らのヒット曲とともにつづったミュージカル映画だ。この映画の中で、フォーシーズンのリードボーカルであるフランキー・ヴァリがソロで歌ったあの名曲のくだりがある。
"Can't take my eyes off of you" 邦題は「君の瞳に恋してる」。誰もが一度は聞いたことがあるような、1967年のヒット曲。その後何人ものアーティストにカバーされている。フランキー・ヴァリはこの曲をリリースする直前に最愛の娘を失くした。失意のフランキー・ヴァリに、この曲のリリース話が持ちかけられる。うろ覚えなのだけれど、彼は「こんなときにラブソングだなんて、とても歌えない」と一度は拒否した。でも結局この曲をリリースし、結果曲は大ヒット。「喝采」を地で行くエピソードなのだ。
歌は人生の悲哀に満ちている。たかが恋の歌、されど恋の歌。
私は人生のどん底で、悲しみに暮れるときも、底抜けに明るいラブソングの歌詞を書ける作家でありたい。昭和の美学っぽいけどね。
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Image by 愚木混株 Cdd20 from Pixabay
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