第6期ダールグレンラジオのまとめ
2022年5月から翌年5月までの1年間、第6期「ダールグレンラジオ」を猿場つかささんとともにSpotifyにて配信した。全16回のエピソードで、さまざまな分野の書き手の方に参加いただき、総収録時間は45時間近く(!)にのぼった(対象となる作品のすべてに目を通してきたので、毎度の準備時間もあわせると途方もない時間がかかっていたことになる)。
エピソードはそれぞれ異なる楽しい企画になっているので、参照しやすいように以下に一覧化してまとめる(また補足として、第6期ダルラジ裏の企画であった①V系SFと②ダルラジ賞についても末尾で簡単に触れる)。
もし見逃していた内容があったら、ぜひチェックしてみてください。ハードな企画にご協力いただいた皆さん、聴いてくださった皆さん、1年間ありがとうございました。
※第6期ダールグレンラジオは、第6期「ゲンロンSF創作講座」に提出された梗概・実作を勝手に講評するラジオです。
エピソード紹介
0.エピソードゼロ:ダルラジ企画会議?
ダルラジ始動前夜のお試し収録。事前アンケートの回答結果を眺めながら、深夜のダウナーな企画会議をそのまま配信した。
1. SFを書くならV系を聴け。第1回ダルラジ梗概選考会(ゲスト:伏見瞬、樋口恭介)
ダルラジの初回配信では、SF作家の樋口恭介さん、批評家の伏見瞬さんとともにアッパーな梗概講評を行い、その過程でいつのまにか「SFはヴィジュアル系である」という命題が合意されていた。
初回のエピソードにもかかわらずかなりの回数再生され、これをきっかけに、ダルラジの裏企画として「V系SF」の公募が開始する。
関連資料
★講評対象課題:「あなたの特徴をアピールしてください」(梗概)
★全作品梗概に対するコメントリスト(樋口恭介さん作成)
★V系楽曲のSpotifyプレイリスト(伏見瞬さん作成)
★V系楽曲のYoutubeプレイリスト(伏見瞬さん作成)
2. 《おぞましいもの》に相対せよ。SF執筆のためのクィア、フェミニズム、ボディ・ホラー(ゲスト:ひらりさ)
SFマガジン2022年4月号BL特集を監修され、留学時にはフェミニズムを専攻されていた文筆家のひらりささんをお招きした。当時上映中だったボディ・ホラー映画「TITANE チタン」について触れながら、SF執筆とクィア、フェミニズム、ボディ・ホラーについて話す。
(伝統的には男性的なジャンルであるSFを扱うにあたり、初期の段階でこのテーマに触れられたことは個人的にも重要だった。)
関連資料
★講評対象課題:「あなたの特徴をアピールしてください」(実作)
★ボディ・ホラー映画のリスト
3. 腕利きのSF泥棒になりたい。ダルラジ帰宅部の盗作/倒錯日和
加速していたモードをいったんダウナーに戻し、河野・猿場のみでゆるやかに配信。「あなたのための盗作レコメンド」なるミニコーナーを設けて、SF執筆に役に立つかもしれないSF以外のコンテンツを紹介したり、おたよりコーナーの質問に答えたりしている。
関連資料
★講評対象課題:「課題を選択しなさい」(実作)
★黒田夏子『abさんご・感受体のおどり』
★海猫沢めろん「今書かれるべき日本語ラップ小説」
★ユリイカ リヒター特集
4. 瞬間、あなたの世界は別様になる。都市風景からハイパーカオスへ——(ゲスト:飯盛元章)
ホワイトヘッド、グレアム・ハーマン、カンタン・メイヤスーなどの現代形而上学をあつかう哲学研究者で、SF作家の草野原々さんとSF創作ワークショップも開催されていた飯盛元章さんとエピソードを収録。
講評対象の実作は「土地」をめぐるフラッシュフィクション。土地を語る際の手つきについてのあれこれを語る。また、メイヤスーの「科学外フィクション」の概念にも触れつつ、日常からはるか遠く離れたフィクション世界についても話した。
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★講評対象課題:「今、自分が暮らしている都市の物語を書いてください」
★ジョルジュ・ペレック『煙滅』
★川上未映子『わたくし率 イン 歯ー、または世界』
5. あなたの生活が小説をつくる。実践からひもとく「書くための」身体知(ゲスト:牧野楠葉)
『フェイク広告の巨匠』『アンドレ・バザンの明るい窓』などの書籍を上梓されている小説家・詩人の牧野楠葉さんをお迎えし、「書くための」身体知/生活についてお喋り。SF創作講座卒業生でありながらその作品は私小説的な作風で、「当て書き」の方法を常用している牧野さんから、日常生活と作品のあいだの関係も含めたいろいろをお聞きした。
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★講評対象課題:「最小限の嘘で最大限の効果を」(実作)
★全実作に対するコメント(牧野さん作成)
★映画『キングメーカー 大統領を作った男』
6. ギミックの前後左右を手当せよ。実作執筆のための極=実践的格言集(ゲスト:小浜徹也)
東京創元社のSF編集者・小浜徹也さんをお招きし、すべての提出作を講評。
「可愛い兎ではなく、可愛がっている人を書け」「天才科学者の視点は禁じ手」などなど、長年SF編集に携わってきた小浜さんならではの極めて実践的なSF執筆のためのTips集となった。
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★講評対象課題:「生まれ育った場所を離れる話」(実作)
7. あなたの死生観は何タイプ? 喪と弔いのSFを読む(ゲスト:人間六度)
『スター・シェイカー』でハヤカワSFコンテストからデビューした人間六度さんと一緒に、すべての提出作を講評。精力的に作品を発表されている六度さんからの実践的なコメントに加え、今回の課題のテーマが「喪」や「弔い」 のSFを書くことであったことを受けて、生と死、虚構、倫理についてさまざまな角度から話すことになった。
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★講評対象課題:「何か(誰か)を葬る/弔う/喪に服す物語を書いてください」(実作)
★『ifの世界線 改変歴史SFアンソロジー』
★重力と時間のラブロマンス:小林泰三『海を見る人』
8. 6時間ノンストップ講評!ダルラジ・クリスマス特別編:最終実作全梗概講評(ゲスト:天沢時生、大滝瓶太)
活躍中の作家のおふたり天沢時生さん、大滝瓶太さんを迎えて、クリスマスの晩に6時間近くかけて和気藹々と40作品ほどの最終実作の梗概を講評した。このあたりから健康を犠牲にしはじめているが、非常に充実した内容となっている。これほど長時間の配信であるにも関わらず、多くの人に視聴を「完走」していただく結果となり、うれしかった。
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★講評対象課題:「最終課題:ゲンロンSF新人賞【梗概】」
9. 謹賀新年?ウサギと父性と少女のホラーをめぐる深夜のおしゃべり
久しぶりにゲストのいないダウナーな配信。わたしの興味と愉悦の赴くままに話している。金井美恵子「兎」をめぐって、マンディアルグやルイス・キャロルなどの先行する作品との関連性や、それを受けていかなる再読が可能かを話す。
(この内容と関連して、2023年11月に向けて八代七歩さんが中心となって制作予定の「兎SF」アンソロジーに、わたしは金井美恵子関係のエッセイを寄稿するはずです。)
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★講評対象課題:「自分の人生をSFにしてください」
10-1. 第二の天地創造のために。第6期最終実作全作品講評兼ダルラジ賞選考会(第1回)(ゲスト:田場狩、本所あさひ)
10-2. あらゆる薔薇の眼をひらけ。 第6期最終実作全作品講評兼ダルラジ賞選考会(第2回)(ゲスト:榛見あきる、藍銅ツバメ)
10-3. アーキテクトは洞窟に住む。第6期最終実作全作品講評兼ダルラジ賞選考会(第3回)(ゲスト:十三不塔、溝渕久美子)
10-4. ひそかなる前夜祭。第6期最終実作ダルラジ賞&個人賞結果発表!
作家の皆さんにご協力いただき、全部で3回のエピソードに分けて、すべての最終実作をそれぞれかなりの時間をかけて講評することができた。どの作品もレベルが高く、退屈させられるものはなかった。
計14時間の配信を走り切った後で「ダルラジ賞」を選出したが、それについては後述する。
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★講評対象課題:「最終課題:第6回ゲンロンSF新人賞【実作】」
11-1. 生成AIと言語表現①:だれの身体が語るのか(第6期ダルラジ最終回・前編)(ゲスト:イトウモ)
11-2. 生成AIと言語表現②:AIにおける語りの時間(第6期ダルラジ最終回・後編)(ゲスト:イトウモ)
最終回のダルラジでは、イトウモさんをお招きして生成AIと言語表現について技術的にも踏み込んだお話をしている。
イトウモさんは批評・小説・戯曲などを幅広く執筆され、これまで公私にわたってさまざまな議論をさせてもらってきたひとなので、ダルラジの最後にお話しできて個人的にもよかった。
エピソードの末尾では、次期ダルラジを担当される牧野大寧さんが時空を超えて登場している。
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★講評対象課題:「雨を描いてください」(実作)
ダルラジ関連企画
V系SF
ダールグレンラジオ初回のエピソードをきっかけに、「V系SF」なるものを公募し、ダルラジ外のWebメディア(anon press、ロカストプラス)に掲載する企画が誕生した。またダルラジとは無関係にV系SFの単語が一人歩き(?)し、V系SFアンソロジーが編まれることになっている。
関連情報は以下の通り。
ダルラジ賞
上述のエピソードの通り、SF創作講座第6期最終実作を14時間ほどかけて講評し、その結果をうけてダルラジ賞を選出した。「SFとしての完成度」「『ゲンロン』への掲載が前提となる」といった、ゲンロンSF新人賞特有の条件から外れるものも含めて豊かな作品を選出した。ダルラジ大賞は難波行さん「ことほぎ」、優秀賞は夕方慄さん「あの子は正定聚」となった。また、講評に参加いただいた作家の皆さんに個別で個人賞を選出いただいた。
次回予告…
第7期のダルラジは、牧野大寧さんが企画・配信されています。
第6期と同じSpotify番組から配信されるので、引き続きどうぞお楽しみください。もしもまだフォローしていない方はぜひフォローしてください。
★牧野大寧さんのTwitterアカウントはこちら
また、ダルラジによって過剰に企画や配信のスキルが培われることになったので、まだ詳細は決めかねていますが、わたしもまた別のポッドキャストや音声配信をはじめるかもしれません。ダルラジのようなさまざまなお話に加えて、以前取り組んでいた朗読なども再開して、愉悦ある音声コンテンツを作れればと思っています。どうぞよろしくお願いします。
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