『風と木の詩』ネタバレ感想。
ネタバレ注意!!
作品のオチを知りたくない人は 絶対 読まないでください!!
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なぜか今まで未読だった『風と木の詩』を読んだ。
さすが名作。
作品世界に引き込まれて夢中になってしまい、途中でやめられなくて、シフトが入ってる日も明け方まで読みふけってしまい、寝不足でパートに行ってミスしてしまったくらい、 超 絶 面 白 か っ た です。
でも、ものすごく暗くて重い設定だし、しかも、かなり最悪の部類のバッドエンドでだいぶメンタルにきましたわ。
ジルベール死ぬんかいっ!!!!\(゜ロ\)(/ロ゜)/
はい、初っ端からすごいネタバレーっ。
それにしてもジルベール、完全無欠の情緒不安定性人格障害ですね。常に誘惑的に振る舞い、誰とでも簡単にセックスしてしまうし、気分が安定しないでコロコロと言う事が変わるし、見捨てられ不安で試し行為と自傷に明け暮れ、状況顧みず「ずっと側にいて。出来ないなら別れて」的な態度をした直後に「やっぱり行かないで。別れるくらいなら死ぬ」的な……ツイッターによくいるメンヘラ女そのものですやん。連載は1976年~1984年らしく、その当時に情緒不安定性人格障害をここまでリアルに描ける資料があったのだろうか。2004年に刊行された相応に治療経験のある精神科医が執筆した書籍にも「パーソナリティ障害について、専門家でさえも、十分な認識があるとは言えない状況である」と書かれているので、おそらく極めて少なかったのではないかと。そもそも人格障害が病気であるという考え方自体が比較的新しいもので、40年前に満足な資料があったとは考え難い。その時代にここまで完璧なボダを描けるなんて……言うまでもなく作者の竹宮恵子は超のつく天才ですが、人間を観察し分析する才能も物凄いとしか言いようがない。
とにかくジルベールの生い立ちは不幸で可哀想。母が夫の義弟と不倫して産んだ子で、誰にも愛情をかけられずに五歳まで使用人に育てられて、やっと身内(立場は叔父だけど実父)が現れたかと思えば、虐待の限りを尽くされ、挿入には至らずとはいえ性的虐待も受けていて、挙句に叔父の知人に強姦されて、すぐ後に叔父にも強姦されて、それからは挿入をともなう性的虐待が日常で……って、そりゃ、気も狂うわ……
ジルベールに入れ込んで振り回されるセルジュは共依存だし、カールも最初はジルベールに誘惑されて混乱した後にセルジュに入れ込んで二人の駆け落ちに協力したらしたで罪悪感に苛まれ挙句にジルベールの悲劇的な死に影響を受けて人生を変えちゃうくらい重い子だし、ロスマリネも強姦されてトラウマ抱えてるし、もしかしたら救いの善人登場か?と思わせてくれたジュールも絶妙に鬱屈してひねくれてるし、パスカルもあれでいて色々抱え込んでいて自由ではないし……
オーギュに至っては、養子で、義兄から性的虐待を受けて育って、ジルベールを敢えてメンヘラになるように育てて、ロスマリネやセルジュまで強姦するという、見事なまでの虐待の連鎖をこなしてくれていて、あまりの人格破綻ぶりに何を言っていいのか分からんレベル……
主要キャラがみんな闇を抱えていて壮絶だった。
真っ直ぐなのはセバスチャンと、普通男子のクルトとネカーくらい?
ジルベールの最期は悲惨そのものだったけど、ロスマリネが立ち直っていた事には救われた。でも、ジュールの妹に惚れて大丈夫なのか……それはそれで何か悲劇が続きそうな気がして恐ろしい気もする。ジュールがロスマリネへの執着をぶり返して、また裏で何かしでかしそうな……
それにしても、駆け落ちした後のパリでの生活はあまりにも酷くて、そこまで悲惨になるのかと呆然としてしまった。セルジュが必死に働いているせいでジルベールが益々荒んでいくっていうのは辛過ぎた。
綺麗なお屋敷に生まれた子が、セルジュの気付かないうちに(セルジュが仕事で留守がち&疲れていてジルベールに構えず、会話の時間をあまり作れなかったせいで)薬漬けにされて汚い売春宿で汚い男たちに身売りさせられ、稼いだ金は酒代にして浪費してしまい、どんどん廃人になっていく展開は息が苦しくなってしまった。
最初から最後まで、ジルベールは人間扱いされずに、凌辱され続けて死んでしまったわけで、鉛を呑み込んだような読後感でした。あまりにも作品世界に引き込まれ過ぎていて、なかなか心が現実世界に戻れず、これを読み終えた日のパートは気持ちが沈んでしまって大変だった。
でも、そのインパクトこそが、名作の力っ!!!
『風と木の詩』ホント、読んで良かった……