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MIMMIのサーガあるいは年代記      ー16ー

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      卯月(うづき) ― 桃子への求婚者五人! ―

 「いっそのこと、桃子に本物の尻尾しっぽが生えて大猿に変身して街ひとつ毀すくらい暴れまくった方が、よっぽどマシだったかもね」このお婆さんの嗟嘆から記者会見の結果を、みなさまも容易に想像できるでしょう。

 大混乱の後始末は、エリカに押し倒されて腕を骨折した筆頭秘書で当日の司会進行をしていた天野が、間に合わせの副木そえぎを腕にあてただけで、煙幕を火災と思い込んだ住民から、駆けつけた消防、放火と桃子の拉致という通報をうけた警察、体育館の所有者である市役所などに一人で対応して、何とか穏便に丸め込んだので大きな不祥事になることは防げたようです。さすがにお爺さんが見込んだだけの人物ではありました。

 天野は、桃子が拉致されたことも問い詰められましたが、持病の発作が起きたので連れ出した、と答えるばかりで詳しい説明をしませんでした。この持病の発作というのはあながち嘘ではありません。

 他方、人間の絨毯巻きにされて車に投げ込まれた桃子は、みなさまのご想像どおりご機嫌が最悪で、エリカや橋本七海らにやたらFuc*  Youなどと口走り中指を立ています。すなわち、記者会見の成功とか不成功かなどの評価はどこかに吹っ飛んでしまうくらいの怒りようだったそうです。

 どの報道機関も桃子の記者会見の弁明や説明内容を報道したところは皆無でした。

 ただ興味本位に、『政財界の黒幕・フィクサー蛸薬師小路たこやくしこうじの孫娘の記者会見が大混乱』というテロップで、煙幕が充満する情景や桃子が絨毯巻きにされる断片的な場面を六十秒ほど地方局が夕方に報道しただけでした。単なる一地方のゴシップを面白おかしく扱っただけでした。

 この報道を知った桃子はさらに怒り、お婆さんも手のつけられない暴れっぷりで、「あいつら全員死ね! 切り刻んでやる!」と、チェーンソーを持って門を出ようとするくらいでした。

 こんな散々な記者会見でしたが、高給を餌に雇い上げたプロジェクトチームのスタッフたちはその高給に見合う仕事をしています。

 会見が中止になってから八時間以内に、会見の様子と桃子の主張を分かりやすく五分間の長さに編集して”新”ユーチューブにアップしました。

 国内最高の技術を持ったスタッフたちですから、カンヌ映画祭に出しても恥ずかしくないほどの、巧妙というより芸術性のあるカメラワークと効果的なカット、BGMといった作品でした。

 例えば、桃子が捨て子であることをカムアウトしたときの悲しそうな表情とそれを聞いてハンカチをあてて涙ぐむヒョウ柄の服を着た地元の女性のアップといった涙を誘う場面。
 お爺さまへの誤解を解いて助けるという桃子の強い信念がほとばしる桃子の表情。
 危険なアフリカの奥地で援助活動に参加する桃子とお爺さんの画質は落ちるが躍動的な記録映像。
 記者の意地悪い質問に対して木っ端微塵にやり込める頭の回転の速い桃子。
 それになんといっても、若く美人ですがお爺さんとともに不当に批難される女性というスタンスが強くでていました。

 動画の三分間バージョンも製作されました。それはアイドルのプロモーションビデオのように仕上がっていました。もちろんアイドルは桃子です。

  これらの画像を、ここにアップできたらいいのですが著作権等の大人の事情からできません。桃子が活躍する動画を見つけ出し、著作権等の課題を解決してネット上に掲載していただく方が、どなたかいらっしゃらないでしょうか? 期待して待っています。

  なお、桃子親衛隊も、新ユーチューブに動画をアップするばかりでなく、SNSにもさかんに桃子を擁護又は賛美する内容が書き込みました。当然ながら、これらの動画や書き込みもプロジェクトチームが作成、統制した内容ばかりです。「ヤラセ」とはわからない素人臭さが自然ににじみ出て、いくらか目的から逸脱しているように見えるものの実はすべて計算し尽くされた結果であるという巧妙さでした。

 こうしたステルス広報の成果として、一般人のあいだで桃子が評判にならない筈がありません。桃子の主張内容も情緒的に正しいもの、桃子は正しいことを主張している、と受けとられました。

  体育館の窓から覗き込むような大勢の人出ですから、桃子のプロジェクトチームによる編集のない動画を撮影した人間は幾人もいて、桃子が絨毯巻きにされて運び出される不都合な場面も含まれたものをアップした人間もいました。ですがアップから二時間以内に、SNSや動画投稿運営会社へ削除要請と投稿者の情報開示請求が弁護士事務所から行われました。東京、大阪、ワシントンDC、モスクワ、パリなどの最大手事務所からです。要するに嫌がらせです。

 大勢の裏方の地道な努力により、あんな散々な終わり方をした記者会見でしたが、ほぼ計画上の目的は達したのではないでしょうか。この現れとして、世界中で桃子の人気が高まりました。その評価はまちまちで、ほとんど視聴者の思い込みの桃子像です。

 いわく、不当な悪と闘うか弱いうら若い美女、鋭い頭の回転をした少女、育ての親(お爺さんとお婆さんのことです)を助けようと悪い大人たちに立ち向かう健気な孝行少女、マジョリティの価値観にプロテクトして独り立ち上がった少女、単なる美少女などでした。言い換えると、動画の視聴者たちは、十台の美少女もモデルから、うら若い女性版のゲバラをまでを勝手に投影したのです。
 ここまで途中経過を見る限りは、結果「ヨシ!」の状態でした。

 こういった全世界的な(一部の人々による)人気は予想外のところからももたらせられました。有名人による求婚です。桃子は十六歳なのですが、海外の有名人には関係があるません。大勢の求婚者の中でも、次の五人が非常に熱心で、財力と名声にものをいわせてきました。

 『イワン・イワノビッチ・シャマロフ
 彼はお爺さんと政治経済的に協力関係にあるロシアのオルガルヒの息子です。ロシアの政権中枢とも密接な関係にある新興財閥の息子です。

フランツ・ヨーゼフⅣ世・ハプスブルク=ロートリンゲン
 家名のとおり、かのヨーロッパ一の名門、ハプスブルク家の御曹司で、彼が家督を相続すればオーストリア帝国帝位請求権者になります。彼の家名と血統は、ヨーロッパの伝統的価値観からすれば潜在的な影響力があり、帝政復古論者もこの求婚を強く支持していました。ちなみに彼は有名な広告代理店を経営しています。

山本三郎
 名前は平凡ですが、ちかごろ最年少の衆議院議員に当選した元総理大臣の三男です。世襲政治家4代目。曾祖父が総理大臣、祖父と大叔父が大臣、父親は総理大臣を引退しても政界で隠然たる力を蓄えていて、三郎本人も将来は総理大臣と自他共に認めるところです。初当選にも拘わらず某省の政務次官に任命されたことからも、その将来性がうかがえるでしょう。なお、俳優張りの美男子ですのでおばさま方に熱烈な信者がいます。この五人の中では最年少です。

 『フランシス・スコット・キー・ギャッツ
 アメリカの投資家です。年齢的にはこの五人の中では最高齢で、離婚歴も四回ありますが、なんといっても膨大な資産と、投資家、企業への影響力があるます。いままでに自分が野望むものは手段を選ばず手にしてきた豪腕です。なお、お爺さんとは対敵関係にあります。

 『李戦念
 中国の共産党政治局委員候補にして、国内で二、三を競う資産家です。ちまたでは赤い独占資本家と揶揄されていますが、国内ではその経済力と政治力は比類がありません。また、漢帝国の直系の子孫を称していて、漢の建国をめざしているとの噂も流れている人物です。彼の影響力はお爺さんを明らかにしのいでいます。正式な離婚歴は二回ですが、いずれもトロフィー・ワイフで有名女優と歌手です。また、美人コレクターとして有名人とのゴシップがさかんな人物です。

(つづきます)