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オナニーマシーンのイノマーが最後につぶやいた言葉を難聴の彼女が読み取った話
皆さんこんにちは。春の陽気に誘われて蒲田を徘徊しています。
先日、お気に入りのテレビ番組である「家、ついて行ってイイですか?」をTVerで見てました。そのときに難聴者と一緒に見ていたらめちゃくちゃおもしろいことが分かったんです。その話をします。
この番組は深夜帯から時々みてるのですが、この番組が好きなのはそこらへんをすれ違ってる普通の人がそれぞれのストーリーを持っているという、ごく当たり前のことをクローズアップして見せてくれるところです。それを見たところで、僕は何もすることは無いのだけれど、いろんな人にそれぞれ味があって、雑多感がつまみに最高だなぁとか思いながら見ています。
オナマシのイノマーの最後に家、ついて行った回
先日も2月28日に放送された「家、ついていってイイですか?特別編」を見ていました。
【2月28日放送分番組概要】
【番組名】「家、ついて行ってイイですか?特別編...ステージで命を燃やし尽くした男の記録~」
【放送日時】 2021年2月28日(日)深夜3時10分~深夜4時10分
【放送局】 テレビ東京
【配信】ネットもテレ東(テレビ東京HP、TVer、GYAO!、ニコニコチャンネル)は3月1日(月)正午配信、Paraviも随時配信
【出演】<MC>ビビる大木、矢作兼(おぎやはぎ)、狩野恵里(テレビ東京アナウンサー)
<ゲスト>香取慎吾、関水渚
この回は家ついていってイイですかの番組スタッフが声をかけたのがオナニーマシーンというバンドのイノマーのパートナーだったというものすごいめぐり合わせで一度放送されたVTRの特別編で、実はこの番組とは全く別にイノマーに密着していた同じテレビ東京の上出遼平ディレクターの映像と共に再編集された貴重な放送回でした。
この回は本当に食い入るようにという表現がふさわしいくらいに見入ってしまいましたね。
また再放送があればぜひ全員に見てほしいし、自分ももう一度見たいのですが、あらすじだけお伝えします。
オナニーマシーンというバンドマンであるイノマーは口腔底癌にかかっていることが判明します。手術をした舌を切除したために発話が困難になりましたが、1年後がんの転移が判明し、余命宣告となります。体力的にもぼろぼろになりながら、最後のライブである『ティッシュタイム・フェスティバル~大感謝祭~』(2019年10月22日、豊洲PIT)に参加し、いつ倒れてもおかしくないような状態で、ステージ上では声にならない声で歌い上げ、銀杏BOYZの峯田さんなどに声をかけられながら車に乗り込みます。
最後のシーンはライブに参加して帰宅するところ、上出ディレクターがイノマーに「ここまでの人生どうですか?」と尋ねるのですが、それにイノマーは数秒無言で考えた後に「楽しかったよ」という言葉を絞り出してしばらくイノマーを映して放送は終わります。
と、ここまでは私が見ていた映像で「ほんと楽しかったんだろうな」というそのままの感想を口に出した私でしたが、一緒に見ていた彼女がこう言いました。
あと「楽しすぎるのも問題だな。ほどほどが良いね。」って言ってるよ。
えっ!私はびっくりしました。そこは全く聞き取れてなかったからです。
確かに「楽しかった。楽しすぎるのも問題だな」というような趣旨のこと以外にもなにかをぶつぶつ言っているということは分かったのですが、字幕は「楽しかった」というところにしかついていなかったのでわからなかったのです。
病気の痛み、舌を切除した手術の影響、あとは残された体力の問題もあると思いますが絞り出すように言葉を出していました。苦しそうなのは誰が見ても伝わるレベルでした。そんな中の言葉ですから、おそらくほとんどの人が聞き取れなかったのじゃないかと思います。
しかし、難聴者がイノマーが何を言っているか分かったのです。
普通に映像を見ていたら当たり前のように理解できたので、私が聞き取れてないということに気づいていませんでした。僕は驚き、後日Twitterを見てみたら、その「ほどほどがいいね」というところまで聞き取ってる人はどうやらいないようでした。
これを確かめようと思ったのですが、いつの間にか再放送期間も過ぎてしまい、確認できませんでした。でも僕はきっとイノマーはそう言っていたのだと思います。
障害があるからこそ手に入る情報がある
これだけでも面白いなあと思うのですが、ここであまり障害というものに関わりない方にも少しだけ伝えられたらと思います。
なぜ、難聴者だからこそイノマーが何を言っているか分かったかと言うと、聴覚障害があると相手の口を読むことで聞こえを補い、相手の言葉を理解しているからです。これを「読話」といいます。英語だとLip Leading(唇読術)といいます。
かっこいいですね。しかし、遠くからでも何を話しているか読み取る技術というよりは、「音声では足りない情報を口の形から補完する」というのが事実です。しかも難聴者全員できるというわけではなく、訓練しないとなかなかできません。しかし、重度難聴者にとって重要な情報源となります。
だからこそ、マスクを付けて話すと聴覚障害者にはほぼ伝わりません。
また、先天的な聴覚障害者の多くは発音が完璧にはなりません。つまり、発音が悪いことが多いです。これは脳の障害ではなく、自分の音が合っているかどうかを判断できないためです。でも、そういう中でコミュニケーションを取ってると、相手の発音が悪くても意思を読み取る力が優れています。
今回のイノマーは舌がない、体力がないということによって発音が難しい状態でした。普通私達にとってこうした障害を持っている人とのコミュニケーションはその障害がゆえに意思疎通が難しくなることがあります。
しかし、聴覚障害者という意外な人がイノマーの言葉をしっかり受け取っていた人がいました。それが普通なら世間では障害とされる人に伝わったというのは、本当に面白いと思わずにはいられなかったです。
イノマーが僕たちに伝えたかったこと
僕はその彼女の言葉をさらっと聞いてしまったし、改めて確かめたかったけれど再放送を見れなかったので、正確にイノマーがそう言ったかどうかというのはわからないのですが、僕はきっと「ほどほどがいいね」と言っていたんだと思います。
イノマーは生きたくて生きたくて仕方なかったということが伝わってきていました。そしてそれと同時に、まだまだやりきれてないことがあるという、生に(性ではなく)執着している自分と、それを許さない無情な運命に対して、楽しすぎた人生だからこそ辛いんだということに気づいたのです。
人生を使い切るからこそ得られる喜び、楽しみがある反面、それが大きくなりすぎてしまうと、自分の前から消えていくことへの悔しさが大きくなる。
傍から見ると明らかにやりきっただろうなと思えるような人生だったからこそ、それが自分の気持ちと真逆に進んでいくの無力感も大きくなる。だから、ほどほどに楽しいほうがまだ楽かもしれない。それでも、最後まで楽しかった、もっと生きたいと思えるような人生にお前らもしてくれと私達に伝えてくれているようにも思えました。
だからこそ、イノマーが「ほどほどがいいね」という言葉を言っていたとしたら、それはもっとたくさんの人に知ってもらえたら良いなと思ってこの記事にしました。