長いカタカナ料理の味は多分みんなわかってない。
パンプキンバスクチーズを頼んだ。
部活で2年半ほど基礎練とSNSに明け暮れ「オーソドックス」のデジタルタトゥーを手に入れた僕にしては大胆なチョイスだった。
たぶん、食べロガーの霊に取り憑かれていたのだと思う。
注文を待つ間、味を想像してみた。
「うわ、バスチーやん。お疲れ〜。」
「おお!おつかれ! え、だいぶ久しぶりじゃない?」
「な!最後会ったん多分アレやもんな!あのコンビニで会ったやつ」
「絶対それやん。笑
久しぶりすぎるな〜。調子どう?」
「ぼちぼちやな〜。そっちは?」
「俺は結構調子いいかもやわ。縁あって今日も横のパンプキンと仕事なんよ。」
「あ、どうも、パンプキンです。」
「あ、どうも。アレみましたよアレ、ハロウィン。」
「あ、ありがとうございます。アレ有名ですよね、、、」
「有名っすよね、、、」
「ね、、、」
「じゃあ俺ら行くわ!お疲れ〜。」
「うい、お疲れ〜。あ、お疲れっす。」
「あ、お疲れさまです。」
パンプキンの情報と自分のコミュ力がなさすぎて泣ける。
幾度か試したものの、全てにおいてバスチーは戦略的撤退を選んだ。
諦めてショーウィンドウに並ぶパンプキンバスクチーズケーキの集団にどんな味なのか聞いてみることにした。
「あれよ、オレンジのやつとバスチ合わせた感じ」
と投げやりな答えをくれた。
誰が1番イイねを稼げるか論争が白熱していた最中で声をかけたので疎ましく思われたのだろう。
教えてもらった「パンプキン×バスチ=パンプキンバスクチーズケーキ」という公式を暗算してみたがやはりパンプキンが未知数「X」だったので「バスチX」としか分からず僕は考えるのをやめた。
僕は文系だった。
バスチXがやってきた。
随分とめかし込んでいてファッショ雑誌のスナップよろしくの秋コーデだった。
その上で依然「味」というミステリアスさをチラつかせる彼に視線という視線が集まる。
僕は彼を先程の論争の土台にすら立たせてやれぬ自分が恥ずかしか思い急いで食べ切った。
胃の中に収まってなお彼のミステリアスさは欠ける事がなかった。
帰り道にバニラアイスを買った。
道すがらバニラさんに先程の経験を話すと「俺はあいつらみんな同じに見えるけどな〜。まあ最近の若いのはなんかねえ。」と言っていてゲンナリしたので僕はバニラさんをSNSにくべることにした。
最後バニラさんが「お前ほんとに基礎練してた?」と聞いてきていたので適当にはぐらかした。
バニラさんは考え込むようなそぶりを見せていたが、どうやら基礎練が未知数「Y」だったらしく考えるのをやめていた。
彼もまた文系なのだろう。