見出し画像

【俳句】拝啓 秋のひと

 
      秋の虹おもひ出すのは指の熱     梨鱗

木の葉がしだいに色づく頃、
ちがう街での暮らしがはじました。
毎日見る景色も、あの日々とは変わっています。
そんなふうにはじまる手紙なら
なつかしさも難なくペンに乗るでしょうか。

でも手紙は苦手です。
ひととの別れは、さりげなく。
別れた後は、なおさら自然に。
それがモットーなので。

あの人と最後に会った日も、
うまくごまかせたかな?
思いのほか、感情は
駄々洩れになっていたりして?
根っから冷静なあなたが時々こまっていたのは
クールになりきれないぼくの素顔だったのでしょう。

別れた後に、その人がほんとうに身近に感じられる。
やっかいな癖が、ぼくにはあります。
別れた後なら、もうその人は最後の日以上に
遠ざかることはないのだから。

だから、あなたと会えなくなったことも
ひそかに愉しんでいるのです。

そう言いながらも。
また、さりげなく会える日を思っていたりもします。
今夜みたいな空を、いつかをあなたが仰いだら
何と言うだろう。
すっかり露っぽくなった草生を歩きながら
思っていたりするのです。


     何してる?訊きたき虫の夜空かな



いいなと思ったら応援しよう!