あなたが話しかけるなら ⋆ 賢治忌
9月21日は宮沢賢治の忌日でした。
賢治という人を思う時、喜捨という言葉がうかびます。
裕福な家に生まれ教員となった賢治は
教え子の家の貧しさにショックを受けたそうです。
ひとに何かを分け与えよう、
ひとが幸せになれるようじぶんの力を使おう、
いつの頃からか、それが彼の生きる指針となりました。
農家の人たちのために肥料の開発研究をしたり、
芸術にふれてもらおうと音楽団をはじめたり。
写真で見る賢治は、おっとりとした顔だちですが
短い人生をしゃにむに生き切った人でした。
子どもの頃、賢治の物語を読んでもどれもピンと来ませんでした。
子どものぼくは、人に何かを与えたいという感情が分からず、
人から何かをもらうという感覚も分かりませんでした。
今よりも随分きゅうくつな世界で我慢していたようです。
大人になってから読んで気づいたのは
賢治の世界では、自然界のじつに多くのもの達が
人間へ語り掛けてくるのでした。
さっそうと登場するのは、風の又三郎。
動物みんなが大好きな、セロ弾きのゴーシュ。
ちょっと人と遊びたくてやって来るのは、どんぐりと山猫。
一方で、自然界から奪ってばかりのにんげんを戒める
氷河鼠の毛皮、かしわばやしの夜。
それがもっと怖くなって、注文の多い料理店。
賢治のすぐれた耳によると、
自然はいつも人に言葉を送っているようですね。
賢治は問い掛けます。
それを聞き取れますか、どう応えますか。
もらいっぱなしで良いのでしょうか、と。