さよなら秋 2022
空想に歯止めの利かない子供でした。
ここにいない何かが、いつも頭の中で話し掛けてきます。
得することもないこの力を
制御できないまま大人になってしまいました。
そんな大人の暮らしはどのようなものなのか。
端的にいえば
眼のまえにないものばかりを
いつも待っているような心理状態です。
「ここ」にはない世界を「ここ」にはないもので
埋めていくために生きている。
しかと意識したことはなくても
どうやらそのために
「ここ」で生きてきたと思えるのです。
ぼくがもう少し
はっきりとした意志を持った大人であったら
その世界をいつでも手に取って
肌ざわりを感じられるよう、名前をつけたことでしょう。
たとえば、Fictionia だとか?
———— う~ん、どうでしょう。
けれど現実のぼくといえば
木の葉が風にしたがうように
聞こえないはずの声の方へふりむくばかり、
この秋も、そんなふうに過ぎて行ったのでした。
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窗のそとばかりがまこと初紅葉
落蝉にまだ右脚のから回り
かほのなか光る黒猫星月夜
秋夕焼かうべのやうにお手玉を
くもの巣はみつのひかりに花梨熟る
蟲の眼にこと切れてゆく白きもの
曼殊沙華くびを刎ねらば迸る
つゑの音杖をつれ来る火恋し