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梅と酵素にまつわる話

6月初旬、梅についての文章を書き始めた。
私は梅が好きで、青梅がスーパーに並び始めると、つい買ってしまう。
買った梅は、たいてい梅酒か梅ジュースにする。今回は酵素ジュースを作り、作る過程や思いを書き、レシピについて調べ、まとめ、終了の予定であった。

しかし。そこで、思わぬ記事に出くわす。
どんな記事かというと、酵素ジュースへの疑問や、危険性を説明するものだ。

そこで改めて、「酵素ジュースとはなんぞや?」という疑問がムクムクわいてきた。

酵素ジュースは10年以上前にマクロビオティックの料理家のレシピを参考に初めて作り、それ以来、何年かに一度ジュース作りを楽しんできた。

「酵素ジュースの誤解」のような記事を見て、え?これまで飲んできたけど?そして今年も作り、飲み始めているけど?…と複雑な思いになりながら、酵素ジュースについて調べを進めた。

酵素ジュースへの疑問は、いろんな記事で見たが、まず目に止まったのは、消費者庁が2015年にレシピサイト「クックパッド」の同庁公式レシピページ「消費者庁のキッチン」に「酵素ジュース」のレシピを掲載後、削除したというもの。掲載後にネットユーザーから「食中毒の恐れがあるレシピでは」と指摘を受け、公式Twitterで経緯を説明し謝罪をされたとのこと。

食中毒の危険性は「確かに…素手で混ぜるしなぁ」と思う反面、今まで何度か作ってきた身としては、もう少し知りたい。
そうして、あれこれネットで見ていくなかで、発酵食品工房を滋賀県彦根市で営んでおられる、ハッピー太郎さんのコラムに行き着く。

何を持って酵素ジュースというのか、明確な定義が見つからない。そして誤解も多い。

とりあえず、酵素ジュースとは「果物とか野菜とかを切って、砂糖や水などを混ぜて置いておいて、しばらくして出来上がったもの。」という風に定義しておきます。その上での検証として、インターネットでよく誤解されている例をあげましょう。

例1 酵素が働いてぷくぷく湧いてきました
ぷくぷくしているのは何らかの酵母発酵だと思われます。酵母はグルコース(糖分)を二酸化炭素とアルコールにします。その二酸化炭素が泡となって「ぷくぷく」します。酵母の体内では12種類の酵素がこの反応に関わっているそうです。酵素は関係していないわけではないけど、それがぷくぷくさせているとは言い難い。ただ、「果物に付着していた酵母」だけが、そのジュース状の液体を満たしているわけではないだろう、とは言っておきます。できる可能性はありますが、それは果実酒並みの注意と技が必要です。そしてこれはアルコール発酵です。(そしてアルコールが1%以上出るものを作れば酒類と見なされ、日本では違法となっております。)


例2 手で混ぜて、手についている酵素を利用する
手についているのはいわゆる「常在菌」と呼ばれるもので何か酵素がたくさん手に付着しているわけではありません。手についている菌を植え付けたいなら、そうしてください。しかし、もし手が荒れていたり怪我をしたりしていたら、黄色ブドウ球菌が混入する危険性もあります。


例3 果物や野菜の酵素を摂取できるから体に良い
砂糖をまぶすので浸透圧の関係で果物や野菜の細胞から何らかの酵素が抽出されることは間違いないと思いますが、それを人が飲んだとしても、ほとんどが胃酸で分解されるという説もあります。酵素はタンパク質。それが胃酸のプロテアーゼで分解されてアミノ酸になります。全てを分解するかどうかはデータがありませんが、その効果についても万全のデータがないのが現状です。

梅小路発酵所、ハッピー太郎さんのコラムより抜粋

読み進めるなかで、酵素は生き物でないことや、プツプツ出る泡の正体は、酵母発酵による二酸化炭素であることなど、具体的に知る。

5月下旬に購入した青梅は、6月上旬、酵素ジュースの記事を調べる前に仕込んだ。てんさい糖と梅を交互に入れ、8日目には小さな泡が出始めた。
泡を確認した翌日、ザルの下にボールを置いて、ビンの中身を流し入れ、梅と梅ジュースを分ける。ビンに移し替え、ジュース作りは完了。
スプーンですくってコップに入れ味見すると、予想よりスッキリした梅の味がした。
気分良く、そのまま文章にしようとしたところからは、前述のとおりだ。

調べることで、知ったつもりになっていた「酵素ジュース」について、もう一段階深く知ることができた。知った上で、来年の梅ジュースはどうしようかと思案する。

そして文章を書くにあたっても、思うところがあった。書く前に取材、調査と聞くけれど、その理由がよくわかった。
梅の記事は、ほんとうは梅が出回る6月に仕上げるつもりだった。しかし、文章完成間際になって、調べ、大幅に書き直し、訳がわからなくなり、しばらく寝かせてあった。これからは、調べてから文章を考えようと思う。


最後にもう一度、好きな「梅」の話に戻る。
私にとって梅といえば、酵素ジュースの他に梅シロップや梅酒、梅干し。
梅シロップは加熱したものを、毎年父か送ってくれる。父にレシピをきいて、来年は一度こちらを作ってみるのもいいかなと思う。

梅の記憶を思い出すのにつられて、祖母の記憶も甦る。祖母とは、私が小学六年生の時に亡くなるまで、一緒に暮らした。
実家の北側にある薄暗い物置き小屋は、幼い私にとって興味深い場所だった。年代物から新しいものまで梅酒や梅干しの瓶や沢庵をつけた容器が所狭しと並べられていた。
金色にゆらめく液体を、祖母が容器に注ぐそばで、横から「ちょうだい」と手を伸ばし、シワの寄った梅やピンと皮が張った梅を手のひらに乗せてもらった。

想いを馳せるうちに、我が家の戸棚にも数年前つけた梅酒があることに思い当たり、久々に引きずり出した。湯呑みに入れて口に含むと、以前のとがった味気ない味は、丸く豊かになっている。
私は自分が育った家の、北側の小屋を、久々に開けたくなった。そこには今、母が毎年漬ける梅干しの瓶が並んでいると思われる。
少し引っかかりのある扉を開けた瞬間、引っ張った扉と一緒に梅干しや沢庵の匂いを含む空気がブワッと動く感覚を思い出す。



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