バトンをつないで #やさしさにふれて
「やさしさって、まわりまわるもんやで」
その言葉を聞いて、私は目から鱗が落ちた。
***
ひどく無茶なお願いを友人にしたときのことである。その友人は快く応じた上で、私に対価を要求しなかった。
「なんでそんなやさしいん?」と私は訊いた。それに対しての返答が、冒頭のもの。
「俺はいろんな人にやさしくしてもらったし親切にしてもらったから、それを今おまえにやってるだけ。そういうもんやろ」
やさしくされたからやさしくできると、そう言うのだ。
時間も手間もお金もかかるお願いをしてこれである。この人のやさしさ底なしか?ってなったよ、ほんまに。
「やから、俺のことやさしいって思うなら、おまえが今度だれかにやさしくしたり」
冗談抜きに、わたしは泣きそうになった。26年生きてきて、やさしさをそう捉えたことがなかった自分を恥ずかしく思った。
そして、それを口に出せる友人を心から尊敬した。
***
彼はその後、恩着せがましいことを一度も言わない。
なんなら私は、継続して迷惑をかけ続けている(最低だな)。
それでも彼は、見返りを要求したことが一度もない。
私は今日も、彼からもらったやさしさを別のだれかに届ける。まるでリレーのバトンだな、と考えて思った。
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