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いつか、ひとつになるために

 祖父母は瀬戸内の島で生まれた。二人は大阪で出会い、父が生まれた。父母は大阪で、商売人の家に生まれ、二人は海の近くで出会い、私が生まれた。

 仕事が好きでたまらない。睡眠不足とストレスで心折れそうでも、トイレでこっそり仮眠して職場に戻る。そのまま明け方から車を走らせ、日焼け止めで真っ白な顔で海に入る。誰にもばれないように。波音だけが聞こえる静かな海で、太陽と共に朝を迎える。

 遺伝子はリレーするのか。
 
 高校卒業時の夢は「死ぬまで働くこと」。
 大学卒業時の夢は「海の側で死ぬこと」。
 尊敬する人は「生涯、現役だった祖母」。

 そんな祖母が亡くなった。

 ある日、凶暴な台風が来て、祖母の命もさらっていった。あまりに急で、着の身着のままだったので、喪服も現地調達することになった。

 靴だけが、時間通りに届かず何度も急かすように業者に電話したら、結局、出棺の1分前に届いた。靴は無料になったが、冠婚葬祭は普通値切らないと言われているのに、祖母の手前、恥ずかしくて複雑な気持ちになった。

 雨は二日ほど降り続いた。小さな箱に入った祖母を抱き帰宅する途中、空を見上げると虹が架かっていた。そのアーチを潜ろうと、追いかけても追いかけても遠のく七色の橋。この日から「虹」は私の特別な証になった。

 一週間後、約束した通り瀬戸内に向かった。

 新幹線とフェリーを乗り継ぎ、着いたらすぐ、瀬戸内の海が見渡せる丘に登った。祖父母が子供の頃見た景色。

 そこは、波の音すら聞こえず、静かすぎた。約束通り、小さな箱を開けた。それは、指の隙間からこぼれ落ち、風と共に消え去った。複雑に入り混じる、祖父母の魂。

 何度、深呼吸しても口元から漏れていく。金属加工業を営んでいた祖父母らしく、二人の破片は研磨した時に出る粉塵のように、吸い込む度に胸が苦しくて、吐き出しそうになる。

 祖父母のように、いつかひとつになれる魂の片割れを想像し、目を閉じる。粉塵を撒き散らし、消えてなくなるその日まで、きっと私は探し続ける。あなたを。

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