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広東に息づく人形文化

広東省・仏山市はご存知でしょうか?
広州市の中心部に隣接し、急速な発展を遂げる仏山市。

今回は、この仏山市の紹介とそこに息づく伝統工芸品について紹介します。

●広州と表裏一体の経済都市・仏山市

 広東省に仏山市があります。仏山市は、広州市の西側に隣接する都市であり、深圳、広州に続く広東省第3の経済都市です。人口は約816万人。製造業を中心として日本企業も数多く進出しています。最近では、水素エネルギーや、日本をそのまま模倣した街の出現で話題になっています。

広州との交通一体化も進んでおり、広州のベットタウンとしての魅力も増しています。そのため住宅開発も盛んで、「仏山の不動産が値上がりして…」という話もよく聞きます。

 そんな仏山市は、長い歴史を持つ都市としての側面があります。新石器時代には既に人々が住み着き、石器や陶器を製造していたそうです。また、名前が示す通り、仏教との関わりも深く、唐の時代に市内で三体の仏像が発掘され、それを祀るお寺が建てられたことから「仏山」という名前になっています。

 更に、長い歴史は、文化も育みます。例えば、中国を代表する文化の一つである「獅子舞」。獅子舞は、福を招き、邪を払うとされ、施設や店舗のオープンなどの祝い事では欠かすことのできない伝統文化です。獅子舞には北方様式と南方様式の2種類があるのですが、その南方様式の発祥地の一つがこの仏山です。仏山の獅子舞は武術と融合されているのが特徴です。武術も盛んで、近代中国を代表する武術家・黄飛鴻やブルース・リーの師匠でカンフーの達人・葉問(イップ・マン)などの著名な武術家を生んできました。

 そして、もう一つが美食。「広東料理」は中国の4大料理とか8大料理とかの分類に必ず入ってくる中華料理の定番中の定番です。「食は広州にあり」として知られる広東料理ですが、実は広東料理も4種類に分けられます。広州料理、客家料理、潮州料理、そして順徳料理です。この内、順徳というのは、仏山市にある順徳区を指します。順徳は広州料理にも大きく影響を与えています。特に、順徳は「料理人は順徳にあり」と言われるほど、著名な料理人を輩出しています。日本の中華料理界で名を馳せた周富徳氏のルーツも順徳ということです。

 このように、仏山市は、大都市・広州市を陰になり日向になりながら支えてきた存在であり、表裏一体のような関係にあります。

●仏山に残る伝統工芸の人形

 そして、仏山には、更にもう一つ中国を代表するものがあります。それは陶器です。仏山は、陶器の故郷とも呼ばれている都市で、現在でもタイルや容器、建築用のセラミックなど、陶磁器の生産が盛んに行われています。

 その中でも、500年に及び火を絶やすことなく現役で使用されているのが「南風古竃」です。現在は、周囲の古い街並みも活用して観光地化されており、中に入ってみることもできます。陶器の街・仏山を象徴するようなエリアで、この中には、数多くの陶器が販売もされています。

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 また、仏山の陶器は、「石湾陶器」とも呼ばれ、陶器で作られる人形で日常風景を再現した置物が有名です。

 広州に来たことがある方は、有名な観光地の一つで「陳氏書院」という場所に行ったことがないでしょうか?陳氏書院は、広州一帯に住む陳一族が約130年前にお金を出し合って建設した建築物で、一族の子弟の教育場所などとして使われていました。この建築様式は、中国南方の民間建築様式を今に伝えており、至る所に残る色とりどりの彫刻や石刻、そして陶器が装飾されています。特に圧巻は屋根に飾られた陶器で作られた人形なのですが、その陶器がまさに石湾陶器になります。

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 現在販売されている石湾陶器のモチーフとしては、三国志の関羽などの歴史上の人物や、中国美人、ライチなど縁起物の果物や虫、動物などをあしらった置物が多くなっています。芸術性も高く、精巧で写実性の高い作品を作り出せるのが特徴で、著名な職人が製作したものになると数百万円の価格で販売されているものもあります。

 こうした石湾陶器は、広州でも施設内や友人宅など、あちこちで目にすることができます。高級ホテルなどで見事なまでに精巧に作られた石湾陶器の置物に出会った時などは、思わず足を止めて見入ってしまうほどです。

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●博多人形と石湾人形

 さて、陶器で作られた伝統工芸の人形といえば、日本には「博多人形」があります。博多人形は、素焼きの人形に直接彩色するのが特徴で、その繊細な筆づかいは高い芸術性を持っています。以前、博多人形師から「数十㎝くらいの人形だったら、表現力で博多人形に勝るものはない」と聞いたことがありますが、実際の人物をモチーフにした人形の製作ですら可能です。最近だと、エヴァンゲリオンの博多人形が販売されて話題になるなど、モチーフも多種多様です。そんな素晴らしい博多人形の作品を目にするたびに、ため息と人形師のセリフを思い出しています。

 この博多人形と石湾陶器の大きな違いは、釉薬でしょう。石湾陶器は、外の屋根や外壁の装飾でも使われるため、雨風に耐える耐久性が求められます。そのため、彩色をほどこした後に釉薬を塗って再度焼きます。そのため、独特の光沢が生まれます。その点、博多人形は彩色後に焼くことはないため、彩色そのままの魅力で表現することができます。

 これは、どちらの人形が優れているかという話ではなく、福岡と広州の両地域で、同じくらいのサイズの表現力豊かな人形が特産品になっていて、更にこうした文化がお互いの日常に溶け込んでいるというのは、とても面白い共通点だと思っています。

 上述したように石湾陶器は縁起のいいものを題材にした作品が多いのが特徴です。その奥にあるのは、こうした縁起のいいものを贈り物として贈り合うような文化が存在しているということでしょう。贈り物を届ける相手の幸福や健康などを祈り、その気持ちを託して人形を贈る。こうした文化としての共通項は大変面白いものだと思うのです。

 それを思うと、石湾陶器で人気のモチーフを博多人形で作ってみたり、博多美人の像を石湾陶器で作ってみたり、といった文化交流も面白いかもしれません。

 日本の伝統技術だからといって日本をモチーフにしたものばかり制作すると、海外では「日本文化好き」という一部の嗜好の人に市場が限られてしまいます。日本の伝統技術で海外の日常に存在するものを表現する。それで、広がる海外市場もあるような気がしますね。

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《 ライチ局長の勝手にチャイナ!vol.10 》

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