重複した入手アイテムの満足度向上、特にクローショット
(この記事には、ゼルダの伝説トワイライトプリンセスに対する軽度のネタバレが含まれます)
みなさんが何かしらのゲームをやっている際に。例えばダンジョンを探索している時、例えばガチャを引いた時、既に持っているアイテムやキャラクターをダブって獲得してしまう事があったと思います。往々にしてそれは「ハズレ」で、その度に落胆させられたか、あるいは最初の1つ目を手に入れた時より薄い感動しか得られなかった事でしょう。
しかし、時に「ダブリ」が初回入手と同じかそれ以上の感動やバリューを齎す事があります。私は勝手にこの現象を「ダブルクローショット効果」と呼んでおり、またゲームクリエイターの作為によって再現性があるものだと考えております。本記事では、このダブルクローショット効果がどんなものか、どうやれば引き起こせるかについて書いていこうと思います。
そもそもダブルクローショットって?
トワイライトプリンセスの軽いネタバレになってしまいますが、ダブルクローショットが何であるか説明せずに本記事の意義を全うする事は難しいので、まずはそこから記述しましょう(既に知ってる方は、このセクションをまるまるスキップして頂いても問題ありません)
ゼルダの伝説シリーズには伝統的に、フックショットと呼ばれるアイテムが存在しました。これは装備する事で使用が可能になり、目の前に鎖付きのフック(と言うよりは鏃のようなもの)を発射します。鎖には巻取り機能が備わっており、例えばフックを敵モンスターに突き刺した場合はリンク(主人公の青年)の目の前まで鎖で引き寄せる事が出来ます。逆に木やカカシのような固定された物体にフックを刺した場合、リンクの方が対象に向かって鎖を巻き取る勢いで高速で飛んでいく事になります。
トワイライトプリンセスにはフックショットが登場せず、代わりにクローショットが登場します。これにはフックの代わりに金属の三本爪がついていて、刺す事ではなく掴む事でターゲットを捕まえる仕組みになっています。この差がある為、フックショットは刺さりやすい木材に対して効果を発揮したのに対し、クローショットは金網のような掴みやすい壁面に使用できるようになっています。
クローショットにはもう一つ、フックショットに無い能力があります。握力を持つクローショットは掴み状態を維持できる為、例えば天上の金網に向かって発射し掴まった後、そこから鎖をジャラジャラ伸ばして高さを調節する事が出来ます。……ただし「クローショットの」この能力、実はほとんど役に立ちません。このゲームには「クローショットで」ぶら下がった状態から更に行えるアクションが「真下への落下」しか存在しないので、高さを調節した所で落下ダメージを抑えるぐらいしか出来る事が無いのです。高所のステージでは真下に床が存在しない事もあり、そんな場面では辞世の句を唄うぐらいしかできる事が無いのです。そう、クローショットのままでは。
このクローショット、あるタイミングで2つ目が手に入ります。以後クローショットは2つ同時に使えるようになり、ダブルクローショットと言う名前に変化、内部的に新しいアイテムをへと置き換わります。ダブルクローショットになって得た新たな能力、それは1つ目のクローショットでぶら下がり状態になっている時、更にもう1つのクローショットを発射できる事です。今まで真下が奈落の「詰みぶら下がり」になっていた場面、近場にある別のターゲットへ2つ目のクローショットを打ち込む事で、次々にターゲットを中継し空中を移動できるようになったわけです。さながら今まで一本の縄しかないインディージョーンズだったのが、両手から発射する糸でビル群の間を駆け抜けるスパイダーマンに進化したかのような違いがあります。前提としてクローショットで掴める金網が必要ではありますが、立体空間を縦横無尽に駆けるようなアクションは今までと段違いの爽快感があります。
で、ダブルクローショット効果って?
長々説明してきましたが、要するに「1つ手に入れただけでも嬉しいけど、2つ目が手に入った時にやれる事が更に増え、変化を大きく実感できる」事を指しています。その代表例として個人的に相応しかったのが、ただ増えただけなのに(内部的には)アイテムの進化であるように描かれるダブルクローショットだったと言うわけです。
この現象をうまい事引き起こせれば、アイテムがダブった悲しみを薄めたり、あるいはダブる事自体にドラマを作れるようになります。ただしダブルクローショット効果は勝手に発生するものではなく、それが起こるような土壌を予め整備しておかなければなりません。以下では、それを引き起こす例について考えていきたいと思います。
ダブルクローショット効果を起こす為に
ダブルクローショット効果を発生させる方法は、主に二つあります。
1.2つ目を手に入れた時の特殊な処理
本家本元のダブルクローショットがそれですが、ダブった時に「ダブりました!なのであなたは○○できるようになりました!」とメッセージを出しながら何かを与えてしまうわけです。ガチャで同じキャラクターがダブった際にステータスが強化されたり新しい能力が得られる、所謂「凸」がこの代表例でしょうか。あんまり綺麗な方法では無いように見えますが、ただ残念な気分になるだけよりは百倍マシです。プレイヤーも喜びます。
2.重ね掛けが意味を持ちやすいゲームデザイン
言ってしまうと、これこそがこの記事の最大の要旨です。諸々の工夫によって、同じアイテムを複数得る事の意義が大きいゲームデザインが可能になります。
一般的なファンタジーRPGを例にしましょう。主人公の剣士は、「武器」「防具」「装飾品」を1つずつ装備する事ができるとします。プレイヤーのあなたは街で「ゴールドソード」を購入して勇者に装備させました。近くにある「魔物の洞窟」の攻略に乗り出し、宝箱を見つけます。中から「ゴールドソード」が出てきました。
大抵の人は、ここでガックリきた事でしょう。こんな事なら、前の街でゴールドソードを買うんじゃなかった!と心の中で叫んだかも知れません。後から宝箱で手に入るアイテムを店で売るな!とツッコむ方もいらっしゃったでしょうが、入手順が逆だったら逆だったで街の武器屋が無意味な商売を続ける事になるので、それはそれで問題です。
でももし、剣士の装備枠が「武器」「防具」「装飾品」ではなく「右手」「左手」「防具」「装飾品」だったらどうでしょうか。あなたが街で買ったゴールドソードが「右手」に持たせた一本だけで、空いた「左手」にはシルバーソードか何かを持たせて間に合わせていた場合、ここで初めてゴールドソード二刀流を実現し攻撃力を更に高められるようになります。……用心深く最初からゴールドソードを2本買っていたあなたはご愁傷様ですが、これは先述の「店で売られるより前に宝箱から出るようにする」方法で回避でき、また店売りで複数入手がアンロックされる事にも価値が生まれるようになります。装備枠が「右手」「左手」「防具」「装飾品」ではなく「装備1」「装備2」「装備3」「装備4」「装備5」なら更に複数持ちのメリットは加速します。剣士以外にゴールドソードを使える仲間が3人ぐらいいた場合もそうです。
また、ステータスが閾値を突破する価値を用意する事で、複数持ちのメリットは更に高まります。例えば攻撃力が敵の防御力を超えないと1ダメージしか入らないダメージ計算式のゲームであれば、同じ剣を何本も持たせて攻撃力を最大まで高める戦略は時に必須化します。そこまで極端なバランスで無かったとしても、例えばより強い武術や魔術を覚える為には攻撃力や魔法力を一定以上まで高める必要があるようにする事でも、重ね掛けの選択肢を極めて有力なものにできます。
手前味噌ではありますが、拙作すごい南でも似たような事をしています。このゲームは各キャラクターが2つまで「象徴」と言うカテゴリのアイテムを装備できるのですが、各象徴はそれぞれスキルレベルと言うステータスを持っており、例えば「剣」は力属性のスキルレベルを+1します。各キャラクターは、このスキルレベルの値と同じ数のスキルが使用可能になります。例えば「剣」を2つ持ったキャラクターは、1+1で合計2レベルぶんのスキル「スピール」と「シュウィート」が使用できます。
ゲームを少し進めると、象徴「鉄球」を1つダンジョンで拾えます。「鉄球」はスキルレベルを+2する事ができます。「剣」と「鉄球」を同じキャラクターに持たせる事で、1+2で合計3レベルぶんのスキル「スピール」「シュウィート」「アクスト」が使用できるようになりました。新しいスキルが使えるようになった事で、プレイヤーは新要素にわくわくしてくれるだろうと目論んでおります。
で、更にゲームを進めると、今度は店で「鉄球」を買えるようになります。こうなると「鉄球」「鉄球」の装備構成が可能になり、2+2で合計4レベルぶんのスキル「スピール」「シュウィート」「アクスト」「シルト」が使用できるようになりました。同じアイテムが手に入っただけであるにも関わらず、今まで使えなかった新スキル「シルト」のアンロックに繋がっているため、ダブルクローショットの例と同じように新たな感動をプレイヤーへと提供できたはずです。当ゲームでは、このように今までより高いスキルレベルを持つ象徴を与えるタイミングと、それを複数入手できるようになるタイミングをそれぞれ調整する事で、プレイヤーに新鮮さを都度提供できるよう工夫してあります。
まとめ
結局の所、いちばん大事なのは「なんか残念な事がおきた!」と感じた時に、ただちにそれをなんとかできる工夫が無いか考える事に尽きます。そうする事で、一見退屈でしかない事にも新たな面白さを見出していく事ができるわけで、自分にとってその最たる例がダブルクローショットだったと言う事です。
……欲を言えば、ダブルクローショット効果に頼らず毎回新しいアイテムを出して新しい驚きを提供するのが一番直接的で一番気持ちいいとは思うのですが、それが現実的に可能かと言えばアイデアの貯蓄や時間的な問題で無理もあると思うので、そう言う時にこの記事を少しぐらい参考にしてみるのも良いかも知れません。
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