M34.35.オレンジ/pray

赤い公園『オレンジ/pray』

両A面シングルのこの2曲。セットで扱おうと思います。

赤い公園は、常に愛聴していたというよりは、ふとした時に思い出したずーっと聴いて、いつのまにか忘れて、また思い出して……というような形でやや波のある付き合い方をしてきました。
自分の好きなバンドマンが赤い公園について言及することは多かったけれど、自分にとっては適度な距離がありました。「そういえば、今赤い公園はどんな音楽やってるんだろう?」だなんて思い出して調べてみて、その時の新譜を聴いて、過去の好きな曲も併せて聴いて、というように。

赤い公園に1番興味を持ったのは、ボーカルがメンバーチェンジした時です。
ボーカルが変わったんです。そうなると、楽器の演奏者が変わるよりも直接的な変化というか、なかなかショッキングな出来事になること請け合いなわけですが、この変化が私にはとても良いショックだったのです。
新しくボーカルになった石野理子という方は元々はアイドルネッサンスというアイドルグループで活躍していた方です。アイドルネッサンスは名前のルネサンス(フランス語で「再生」「復活」)の通り、過去の曲(アイドル楽曲に限らず)を再解釈してパフォーマンスするアイドルでした。「名曲ルネサンス」と題して基本的にはカバーのみをするグループでした。

少しアイドルネッサンスの話をしましょう。
Base Ball Bearの『17才』のカバーでデビューをしたアイドルネッサンスはBase Ball Bearの他に、真心ブラザーズやユニコーン 、大江千里や岡村靖幸といったおよそ典型的なアイドル楽曲とは違った楽曲をカバーしていきます。(強いて言えば、発端のBase Ball Bearの初期・中期の曲は青春らしさのようなものを多く内包しているし、そういった楽曲をカバーしているのでアイドルらしいと言えなくもないですが。)
私自身アイドル界隈にはあまり明るくなく、それこそBase Ball Bearなど好みのバンドのカバーをしていたことで興味を持ちました。
アイドルネッサンスは志半ばと言いますか、「これから!」というようなところで解散をしてしまいます。最後にオリジナル曲のみで出したミニアルバム『前髪がゆれる』は彼女達の行く末、明るい展望のようなものがうっすら見えた1枚で、まさかそれが最初で最後のオリジナル曲たちになるとは思っていませんでした。
『前髪がゆれる』に収録された4曲はいずれも、Base Ball Bearのフロントマンである小出裕介による作詞作曲です。彼得意の言葉遊び(それもとても高度な)のような歌詞や、喩え、視点がふんだんに盛り込まれています。このまま小出裕介プロデュースでオリジナルアルバムのリリースを重ねていくアイドルネッサンスが見たかった思いは強いです。

そんな、アイドルネッサンスのメンバーだった石野理子さんが赤い公園の空席となったボーカルの座につきます。
2018年の10月末に彼女がボーカルになって初めての楽曲『消えない』がYouTube上で公開されます。この曲が私の中にとても強い印象を残しました。あまりにも声がバンドに合っていたのです。もうずーっとこのバンドでやってきていたかのようなマッチ具合でした。それでいて、(新しい人が入ったわけなので当たり前と言えば当たり前なのですが)新鮮さも同時にありました。
マッチしていて新鮮、しばらくこの曲ばかり聴いていました。
ただ、新体制になってからはしばらくYouTubeに新曲がたまにアップされる程度でリリースされない状態が続きました。(『消えない』含め、楽曲がリリースされたのは約1年経ってからのことでした。)その都合もあって、赤い公園のことはやっぱり忘れたり思い出したりする距離感になります。

そんなこんなで適度な距離感で赤い公園に接してきたのですが、話は件の『オレンジ』『pray』に至ります。
この曲のリリース前に、あまりに悲しい出来事が起きてしまい、赤い公園ファンでなくとも、私のような薄い聴きてやそれ以外にも記憶に残ることになります。
赤い公園のほぼ全ての楽曲を作詞作曲されていた、メンバーでギタリストの津野米咲さんが自ら命を絶ったというニュースが流れたのです。
そのニュースは夕方に流れたのですが、前日。なんだか急に赤い公園のことを思い出して、翌朝(つまりは当日)私は赤い公園を聴きながら出勤していました。石野さんが入ってからのアルバムが出ていたのにそれに気づいていなかった私は「やっぱりこの4人組すごい!」だなんて思いながら職場へ向かっていたのでした。(忘れていたくせに。)こういう嫌な巡り合わせはなかなか心に突き刺さりました。
そういったことがあってから、『オレンジ』『pray』のMVがYouTubeで公開、リリースされました。

『オレンジ』にせよ、『pray』にせよ。長いお別れがとても合う曲です。MVには映っているし、音にも入っているのに既にこの世にはいない津野さんを感じずにはいられないものでした。残念ながら、現実が物語として曲に乗ってしまいます。その悲しいマッチの仕方が忘れられません。

当然ながら、何にもなくとも『オレンジ』も『pray』も名曲です。ただ、人は知らなかった時には戻れません。悲しい出来事と不可分になってしまいました。
それでもやっぱり、この2曲はとても好きです。

それでは、また。あなたのことだけをずっと想っています。

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