病歴24:剃髪のススメ
これから抗がん剤治療を受ける方は、抗がん剤治療を開始する前か、直後でもよいので、髪の毛を短くしておくことをお勧めしたい。
抗がん剤は、細胞分裂が盛んな部位に作用する。その細胞分裂にブレーキをかける薬剤だ。
そういう細胞分裂が盛んな場所であるのが、腫瘍であり、骨髄であり、毛根であるのだと教えてもらった。
髪の長さが長いと、弱っている毛根が髪の自重に耐えられず、引っ張られて頭皮が痛く感じる。
私の体験に過ぎないが、髪が10cm以上あるのと、5cm以下の長さにしておくのでは、痛みが全然違う。
10cm以上に伸びていたので、今回は髪を引っ張られる痛みが、とてもつらかった。
短くしたからと言って、抜けないわけではないのだが。
第2クールを直前に控えて、ようやく美容室に行くことができた。前回の抗がん剤治療の前後にもお世話になった、いつもの美容室だ。
ケア帽子を外して、少なくなった頭髪を見せるのも、彼女相手にはそこまで抵抗を感じない。
「剃髪したいです」
開口一番、心から希望した。
美容師さんは、それはちょっと…と、ためらう様子を見せた。
頭皮の痛みのこと、入浴時のうっとうしさのこと、生活における抜け毛拾いの負担を説明したところ、納得してくださった。
そっと洗髪してから、鋏を入れ、それからバリカンで耳の周りから髪を短くしていく。
男性だったら、中高生の頃にバリカンで髪を短くする体験もあるのかもしれないが、私には初めてのことなので、ちょっとだけ楽しい。
襟足から耳の高さにかけては短く、頭頂部は少しだけ長さを残して、1cmぐらい。
洗って乾かすとふんわりする感じ。
これは、見た人に撫でられるやつや…。
少しでも格好がつくようにしてくれたのが、美容師さんの譲れない矜持なのだろう。
ほんとは、丸坊主にするのも面白いな、と思っていたので、ほんの少し、私の不満が顔に出てしまったのだと思う。
「剃れないんですよ。美容師なんで。床屋じゃないんで」
と、困ったように言われて、あ!と思った。
そうですね。剃刀を使うのは、理容師さんのお仕事ですね。
すっかり忘れていた。
抗がん剤治療が終わって、1ヶ月したら髪が生え始める。
次に美容室に来るとしたら、それから更に1ヵ月が経ったぐらい、半年から8ヵ月後ぐらいになるだろうか。
髪が生え始めたら、どのような髪型にしようか。
今度は何色に染めたり、短い髪を楽しもうか。
前回の治療後に髪の量も減ったし、髪質も変わったし、今回の治療後に同じように髪が生えるとは限らないけれど。
そしたらそれで、ウィッグを選ぶことを楽しめばいい。
そういうことを楽しく話して、また半年後かいつかに来ることを約束しながら、店を出た。
さっぱりとした気分。これなら帽子を脱いでも恥ずかしくない。
帰り道、車の中では帽子を外して、窓からの風を楽しんだ。
髪を短くしたことで、頭頂部がずいぶんと薄くなっていることが可視化されたし、これからも更に抜けていくことだろう。
どこから抜けるかは決まっておらず、まだらに髪は抜けていく。
洗おうとして、髪のない地肌に触れてドキリとすることもあるだろう。
髪が減ってきてドライヤーがいつもより熱く感じるようになっていたので、タオルドライだけで対応できるのは、ずっと楽だ。
抜けた髪を拾い集めた後で、白髪が増えたものだとため息をつくこともなくなる。
頭皮は、髪が抜ける時には痛みはないが、抜けるまでが痛いのだ。
思い切って短くして、ほとんど痛みを感じなくなる。
たぶん、睫毛や眉毛、手足の体毛も、長さが短くて軽いから、引っ張られる痛みを感じずに済んでいるのだろうなぁ。
それに、短い方がブラシをしても絡むことがないので、苦労は少ない。入浴も掃除も、かなり楽になった。
その代わり、夜気は少し寒く感じる。きゅっと頭皮が縮む。
それともう一点、髪を今のうちに短くしておきたかった理由としては、抗がん剤治療が終わって、髪が伸び始めるときに、前回、苦労したからだ。
わずかに残った髪がもつれて痛いし、そのまばら具合が見苦しくて人に見られるのが嫌な状態だったし、抜けることよりも生えるときのことを考えて、今のうちに短くしておきたいと強く思ったのだ。
その時のことは、病歴18に書いている。
私の場合は、原因が薬の副作用であり、この脱毛という現象が期間限定であることがわかっている。
抗がん剤治療が終わったら、再び、髪が生えることがわかっている。
でも、円形脱毛症の方にとっては、原因がはっきりしないこともあるだろう。いつまで続くか、どこまで抜けていくのか、また、どうやったら治るのか、はっきりしない場合の方が多いだろう。
そういう原因、経過、予後といった見通しが立たないことは、人を不安にさせる。
こうすればいい、という改善の手段も、諸説ある中で、迷うこともあるのではないか。
その曖昧な状況に耐えなければならない苦痛に、思いを馳せることがこの数週間、多かった。
もし、これから抗がん剤治療を受ける方がいらしたら、ぜひ。
早めに短くした方が楽ですよ。
サポートありがとうございます。いただいたサポートは、お見舞いとしてありがたく大事に使わせていただきたいです。なによりも、お気持ちが嬉しいです。