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書籍『魔女たちは眠りを守る』
村山早紀 2020 KADOKAWA
いてもいなくて、おんなじ。そんな気持ちに駆られることがある。
人の子は、寂しいときに、そんな気持ちに襲われる。
よくないものがいたずらするような暗がりは、そんな寂しさにつけこむことがあるから要注意だったりする。
いるのに、いないふりをする。いないと思われている。
人の子たちとは逆の、それが魔女たちだ。
目立たないように、魔女たちは町から町へと移り住みながら、人に紛れて長い命を生きる。
人より長いいのちから人の子を見守る、というところが、ちょっと不思議な感覚をもたらしてくれる。
おそらくは、ひとの子が蝉の一生を見てその短さを嘆くように、魔女たちはひとの命の短さを惜しむ。(p.258)
考えてみれば、人のほうが、自分よりも短い命を見守りながら暮らしていることが多い。
人より長いと言われる命はなかなか少なく、日常的に一緒に暮らす可能性の高い長命のいきものというと、大型インコぐらいしか思いつかない。
犬や猫でも兎でも、飼っていたことがあれば、その駆け足のいのちを見守り、見送る切なさは想像がつく。
もっとも、人よりはるかに短い命の猫たちは、その晩年になるとどうやら人を見守っているような境地に至る気がするのだけど。
魔女たちは魔法を使うけれど、攻撃的なものではないし、万能でもない。
力を使いすぎれば、魔女たちはきらめく光だけを残して消えてしまうこともある。
数少なくなった同胞たちのなかで、七瀬は、それでもおそらくは年若いほうの魔女で。
舞台となる町を見守るニコラは、ずっとずっと長い時間を過ごしてきた魔女で。
彼女たちは、出会った人々を忘れることなく、守り続けている。
ひとは自分だけのためには強くなれないんだ。(p.116)
弱いのに、不思議な力もないのに、一生懸命に強くなろうとする。
その人の子のさがを、魔女たちはたぶん無視できない。
魔女たちは、とてもとても長い時間をかけて生きており、たくさんの命を見送ってきた不在を抱えて生きている存在である。
そこに著者の愛を感じる。世界を愛しており、ひとの子を愛している。過ぎ去り、うつろう世界を惜しみながら。
深い、深い愛情が、すべての眠りを優しく守ろうと、手を差しのべているのを感じた。
夢のある眠りも。
夢のない眠りも。
キノノキの連載時から読んでいるが、こうして1つの物語として本に納められると、記憶していたよりも長くて大きな物語だった。
表紙も美しくて、実物を手にするのが楽しみ。
この記事の表紙は、でも、長崎の夜景を。
今回も、#NetGalleyJP さんで読ませていただきました。
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