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お江戸けもの医 毛玉堂
泉ゆたか 2019年7月22日刊行 講談社
動物たちは嘘はつかない。動物のすることには意味がある。
人がすることにも意味がある。だが、人は嘘をつく。
小石原の療養所で人の医者をしていたという凌雲と、その押しかけ女房となったお美津。
捨てられているところを世話して、そのまま貰い手がないまま引き取っている、犬たちや猫。
夫婦のぎくしゃくとした同居は意外とにぎやかで、あれやこれやと客と出来事が舞い込んでくる。
お美津の幼馴染は笠森お仙というから、浮世絵好きとしてはにやにやせずにはいられなかった。もちろん、鈴木晴信だって登場する。
こういう実在の人物を縦糸にして、お美津や凌雲という想像の人物を横糸に絡めて、物語というおりものができあがる。
それも、とびきり穏やかで優しい物語だ。切ったはったのない、町衆の時代劇に重ねられた市井の人々の物語だ。
ただ傷ついた動物の治療をするだけではなく、人間以外の動物とどのようにつきあっていくのかを投げかける。
その動物たちとのつきあいのなかで最も難しいのが、人という動物との付き合い方であり、お美津とお仙それぞれの葛藤も穏やかに描かれる。
なんで、凌雲は人の治療をやめて、動物の医者になることになったのか。その凌雲と男女の仲ではないお美津が、どのようにして女房になったのか。そして、この二人はどうなるのか。
そこに善次という謎の少年まで加わるから、最後まで読まないと事のあらましはわからない。
トラジは獣のくせに、あんたの勝手でここにいるんだ。ここにいてくれるんだ。トラジに余計な負担を掛けようなんて考えずに、少しでも楽しく穏やかに暮らせるように、あんたが心を配ってやってはどうだ?(p.146)
人はよく動物の気持ちをあれこれと思い描いてこじつけてしまいがちで、自分の勝手や都合の押し付けではなくて、動物としての自然な理由を考えることは難しいことがある。
そのあたりの機微がとてもよく描かれていて、少し耳が痛い。
犬思い、猫思いの、優しい物語だ。
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