ランディさんと始めるリコーダー 第2回
0 ランディさんのマガジン
第1回に続き、第2回目のレッスンは2020年8月5日に行いました。
その前に、すでにお気付きの方もいらっしゃるかと思いますが、このリコーダーレッスンについて、田口ランディさんの方も「恋するリコーダー・本村睦幸さんからリコーダーを教えてもらう」というマガジンを開始されています。こちらは現時点(2020年8月20日)でもう9記事もアップされていて、作家の方の筆の早さに驚くばかりなのですが、その中でいろいろ試行錯誤されている様子や疑問に感じて困っていらっしゃる様子も伺えて、すぐにでも助け舟を出したい衝動に駆られてしまいます(笑)。思えば、全ての生徒さんが悩んだり困ったりもしながら熱心に練習されているのでしょう。それをしっかりと文章にしていただけるという貴重な機会はありがたい限りです。
じつは一度、ランディさんの記事に書かれている試行錯誤に対して、僕の方も言葉で「それはこうするといいです。それはそうではありません」と逐一書いてお答えするというのを試みたのですが、文章で読んでもかえってわからなくなってしまいそうな長文になってしまい、お伝えするのを諦めてボツにしました(笑)。
そこで今回はレッスンの最初に、いろいろ疑問に思われることを質問していただき、それにお答えすることから始めることにしました。そういうわけなので、最初のあたりは、お話ばかり続くというレッスンになり、その後も基本的なことが続く回となりました。基本的なことほどややこしく感じるかもしれませんが、そういう場合は軽く流してくださって構いません。
(それにしても、レッスンの内容を文章に置き換えると大変長くなりますね。実際のレッスンではわからないところは自然と受け流すことになるのでしょうけど。)
1 最低音が難しいという話
ランディさんの最初の質問は、持ち方について、特に指孔をどう押さえればよいのかということでした。全ての指孔を押さえようとするとき、いわゆる指の腹よりも関節近くで押さえる方がやり易そうなのだけれど、それでよいか?という話から始まりました。「それでよい」というのが僕の答えです。実際、僕自身も指孔の間隔が広い楽器を吹くとき、特に右手薬指は関節に近い位置で押さえていることが多く、特殊に広い楽器(この記事の最後に写真を載せた楽器とか)だと、関節あたりで押さえることもあります。右手薬指の孔は、現代のほとんどの楽器ではダブルホールになっていて面積も広いので、指先あたりで押さえていると知らないうちにに少し隙間が開いてしまうということもあります。リコーダーには孔を押さえるためのキーがついていないので、ともかく、孔をしっかり押さえるということが最優先で、自分にとってやり易い手の形を見つけて行ってください。難なく押さえられる人はそれでいいのですが、手の大きさや指の長さのバランスによって、手の形をどうするのがよいかは、人によって違って来ます。ただ、少しずつ上達するにしたがって、指を機敏に動かすというような要素も加わりながら、自分にとって合理的な手の形というのも常に更新されて行きます。
そこで、やや話が飛びます。右手の親指を引っ掛けて支えるための指かけ器具が楽器に付属している場合があるのですが、それを使うと、右手親指の位置が固定されてしまい、自分にとっての合理的な手の形を探しにくくなりそうに思います。僕はお勧めしていません。キーの付いた現代の管楽器は指かけなしでは重くて支えられないかもしれませんが、リコーダーは軽いので、指かけなしで支えるようにするのがよいです。リコーダー歴が長く、指かけがないと吹きにくいとお感じの方はそのままでもよいとは思いますが、最低音が確実に出せないというような場合は、指かけを外して、右手の形を合理的にしていくのにトライするとよいかと思います。
とはいえ、アルトリコーダーを始めて間もない方であれば、まだ最低音については気にしなくてよいです。アルトリコーダーのハ長調の曲であれば、下から2番目のソ(g')はたくさん出て来ても、ほとんどの曲には最低音は出て来ません。まずは、g'を伸びやかに出すのを目標にするのが早道です。そして、最低音の練習をしたいとお思いであれば、指孔をセロテープで塞いで出してみるというのがお勧めです。最低音は、息も強く吹けないので、最低音に苦手意識がある方は、弱々しい音になってしまいがちなのですが、セロテープで塞いでしまえば、意外と伸び伸びとした音が出て、息づかいは全然難しいわけではないということに気づくはずです。ただ、繰り返しになりますが、まだ最低音のことはしばらく気にせず、もうしばらくしてから練習開始するのを楽しみにお待ちいただくのがよいかと思います。
では、その辺についての、ランディさんとのやりとりをご覧ください。
2 「バロック式」はバロックじゃないという話
この話は、これからリコーダーを始めようという方にとっては必須の内容ではないようにも思うのですが、ランディさんのおっしゃることが僕自身の活動に関わるツボを突くことだったので、語り始めてしまいました。古楽器(作品が書かれた当時使われていた、現代の楽器とは異なる仕様の楽器)としてのリコーダーに関心ある方には知っておいていただきたいことです。(でも、読み飛ばしても問題なしです)
ランディさんは今回初めて、いわゆるバロック式(イギリス式)運指で練習を始められて、バロック式ってなんだろう?と思っていたら、バロックの曲は、バロック式の運指の方が楽に吹けるのではないかと気づいたとのことです。でも、これは答に窮する話なのです。というのは、バロック式(イギリス式)運指は、1920年代に古楽復興初期のイギリスの偉人アーノルド・ドルメッチが作り出した運指で、バロック時代(17世紀〜18世紀初め)に使われていた運指ではないからです。ソプラノの低い方のファ(f'')、アルトの低い方のシのフラット(b' flat)の運指は、バロック式(イギリス式)では01234-67ですが、バロック時代の運指では01234-6-で、右手小指が要りません。でも、その1オクターブ上は第6孔に隙間を開けて音程を調整しなければいけません。他にもあちこちで、適切な音程を取るための面倒な運指が必要になります。しかも当時の仕様の楽器だと第6孔は通常シングルホールなので、なかなか難しいです。専門のリコーダー関係者は、イギリス式(バロック式)運指のことをモダンフィンガリング、バロック時代の運指のことをオールドフィンガリングと呼んでいます。
次の写真上が、シングルホール・オールドフィンガリングの楽器で、孔の大きさがすべてほぼ同じです。下がダブルホール・モダンフィンガリングの楽器で、第4孔が小さく、第5孔が大きくなっています。こういう見た目のバランスも重視されていたと思われます。
ドルメッチがイギリス式運指を作り出したのも、運指が面倒になるのを避けるためだったと思うので「バロック式の運指の方が楽に吹ける」というのはあながち間違いではないのですが、それをいうならジャーマン式の方が楽な曲もたくさんあるわけです。これからリコーダーを始める方にイギリス式の楽器を使ってくださいとお勧めするのは、イギリス式が現代のリコーダーの標準だからということに他なりません。古楽器と称してバロック音楽を演奏している場合でも、ほとんどの場合はイギリス式の楽器が使われていて、オールドフィンガリングを使う奏者はプロでもまだ少数派です。アマチュアの方は気にしなくても良いことかもしれません。僕に関していえば、今年リリースしたCD〈ナポリのリコーダーコンチェルト〉では現代の標準ピッチより約4分の3音低いピッチで作られたオールドフィンガリングの楽器を使ってたりするので、そいういう話になるとちょっと熱くなってしまいます(笑)。なぜそんな面倒なことをするのかというと、音程が取りにくいというのは裏を返せば音程の取り方が柔軟になるということでもあり、また、面倒な運指が多くなると、よく鳴る音と鳴らない音の差が大きくて現代の管楽器との異なる特性が顕著になり、それを活かす演奏を探求することで新たな表現を切り開けると思うからなのです。
そのようについつい語り始めてしまった様子を次の動画でご笑覧ください。でも、もちろん、現代ではリコーダーのレパートリーはバロック時代のリコーダー作品に限りません。様々なレパートリーを体験するためにも、まずはイギリス式運指(モダンフィンガリング)の楽器に親しんで行きましょう。
3 楽器の支え方
この辺で、全音符や2分音符といった音符の理解から始める単純なリズム練習に移ろうというところだったのですが、その練習をアルトのソ(g'')の音でやるため、まずは楽器の支え方についての話をすることにしました。というのも、ランディさんの方の記事で、リコーダーは浅くくわえるのがよいに違いないというようなことを書かれていたので、それも含めてもう一度支え方を確認しておこうと思ったからです。しっかり支えるにはくわえ方が浅いとよくないのです。左手の中指で第2孔だけを押さえるアルトのソ(g'')が、リコーダーの支え方の基本になります。これについては、第1回の記事でも書いたので、それをそのまま引用します。
アルトはソプラノより重いので、楽器の支えも意識すると吹き易くなるかと思います。[中略]ソ(g'')は、上から2番目の孔のみを左手中指で押さえるのですが、このとき楽器と接しているのは、口と右手親指、左手中指の3点です。下から上へ楽器を支えているのは、下唇と右手親指ですが、左手中指は上から下に押さえて楽器の支えを安定させているわけです。このように3点で挟み込むというのがリコーダーの支え方です。この左手中指の働きを僕は「表側の支え」と呼んでいます。
このような支え方ができるようになるように、ランディさんにやっていただきましたので、動画をご覧ください。支え方の話が始まるのは1'50"ぐらいからです。
楽器の支え方のような基本のことは、初心者の方にはかえって難しいことがしばしばです。未経験なうちに言葉で説明されてもピンとこないことも多いでしょう。基本的なことがよくわからなくても気にせず先に進んで大丈夫です。少し進んで気になったときに戻って来てください。
と前置きしつつ、もう少し説明を加えます。このように口と右手親指、左手中指の3点で支える場合、下唇は楽器の重みをしっかり受け止める必要があるので、くわえ方が浅くてはダメなのです。また、くわえ方が浅いと、唇の奥のあたりが狭まって笛に流れ込む息の流れを邪魔することもあるので、吹き口の先端は唇の奥まで、つまり歯に当たるギリギリまで深くくわえるのがよいのです。もちろん、吹き口の先端が歯より奥になってしまってはタンギングができなくなるので、歯よりは外側です。(動画を見ていただけるとおわかりのように、これは、ランディさんが思っていらしたのより「浅い」ということでした。当たり前ですが、言葉だけでは誤解を招く場面というのもあるわけですね。ちゃんと説明する機会を作れてよかったです。)
それから、歯に当たるギリギリまで深くくわえるにしても、歯が息の流れを邪魔してもよくないです。そのためには、笛が顔面に垂直に近いぐらいの角度にすると良いです。きっちり垂直でなくても良いし、多少は下向きでも良いのですが、顔面に対して下向きすぎると息の流れが口のあたりで邪魔されることがあります。人それぞれの口の形や歯並びにもよるでしょうが、息の流れ方が邪魔されないような角度で吹くのが良いわけです。笛が下向きであれば、顔も少し下向きになります。
支え方について最後にもう一つです。楽器を支える力は軽い力ではあるものの、3点で支えてずっと吹いていると多少は疲れてくるのか、知らず知らずのうちに、左手の親指でも支えてしまったりします。左手親指は最も頻繁に動かす指ですので、支えには使わず、孔を閉じていないときには孔から離して宙に浮かせておきます。これは左手親指に限らず、どの指も開けている時には孔の上空に待機するイメージで宙に浮かせておきます。例外的に、右手小指は、孔を閉じていないときには足部管上部の出っ張ったところに置いて、補助の支え指にしても良いです。特に、左手中指(第2孔)を開けるときには、この右手小指による支え指があると安定します。ただ、うっかり孔を塞いでしまわないように注意しましょう。右手小指を閉じる頻度は低いのですが、もちろん閉じる場合もあるので、この小指の支えはいつでも離せるようにしておいてください。基本は最初に書いた3点の支えです。
4 全音符を2分割して行く
すっかり話が長くなっていましたが、ようやく今回のスタートと考えていた楽譜の読み方の基本の説明に入りました。ランディさんにお渡しした教材はこれです(このレッスン後に少し改訂しています)。
2ページありますが、やったのは1ページ目のみです。楽譜が全然読めない方でも基本の基本からと思って作った教材で、すぐに通過できるだろうとタカをくくっていたのですが、とても難航してしまいました。下のレッスン動画も20分あります。基本的過ぎるとかえって難しいということですね。音符の種類の説明だけにとどめておいても良かったのかもしれませんが、それを安定した拍に乗って実際に音を出すというのは実は高度なことなのだと思います。基本的過ぎると、初心者の方へのメソッドとしてはぶっ飛びすぎになるということ、僕の反省点となりました。
というわけで、上のPDFファイル1ページ目をご覧になって、このぐらいはわかるとお思いの方は、ここは飛ばしていただいても良いのかもしれません。一応、以下に解説も書いておきます。
音符の基本は全音符です。それが2分割されて2分音符、さらにそれが2分割されて4分音符、さらに2分割されて8分音符、さらに2分割されて16分音符というようになって行きます。1ページ目の全体の5段を眺めてそれがおわかりでしょうか?この辺りもあまり自信がないと思われる方は、動画の方もご覧ください。
そして、楽譜を読むということは拍に乗るということとほとんど同義です。楽譜の左端、ト音記号の右側にある「C」のような記号は、現代では4分の4拍子の略記だと見なされていたりしますが、本来は、全音符を1拍としてそれが2分割されるという意味なのです。(ちなみに、このCはアルファベットのCではなく、円の一部が欠けた形です。キリスト教の三位一体という教理にも現れているように、3が完全で2は不完全という考えがありました。完全な円が欠けて不完全な2分割を表すというのが由来です。)
では、1段目のリズムをそういう拍に乗りながら音を出してみましょう。最初は笛を吹かないで手で拍を打ちながら、音符は「テー」と声を出して唱えると良いと思います。
各音の開始で手を下に打つとすれば、次の音の開始で再び下に打つためには、その前に手を上に上げなければなりません。そうすると手の動きは下上下上を繰り返すことになるでしょう。それぞれの動きは機敏に、そして下へ上への手の動きを等間隔にするというのが2分割にするということです。手を下に打つ拍を日本語では「下拍(かはく)」手を上げる拍を「上拍(じょうはく)」と呼びます(英語だとdownbeat / upbeat)。
それでは、手を下に打つのに合わせて「テー」を開始し、手を上げるまで音を伸ばし、次に手を下に打つのと同時に再び「テー」と発音してみましょう。開始する前の無音状態でも拍を打ち、始める直前の上拍に合わせて息を吸うと良いです。4小節目は全休符で何も発音しませんが、拍は等間隔で動き続けます。楽譜の最後にある縦に2個の点がついた記号はリピート記号で、全体を2回繰り返します。拍の動きを止めず、最初に戻るタイミングが遅れたり早くなり過ぎたりしないようにしましょう。拍の速さは自由ではありますが一定で、例えば全音符1個が2秒間(つまり下上下上が1秒間隔)ぐらいでどうでしょう?
それができたら、今度は頭の中で拍を打って、リコーダーで楽譜通りに吹いてみましょう。これがなかなか難しいのですね。ランディさんも大変苦労されていました。最初の段階では複雑なリズムよりかえって難しいかもしれません。ここも先に進んでから戻って来るべき基礎なのでしょう。単純な練習であっても拍に乗ること自体が楽しいという感覚が得られればしめたものなのですが。
次は、全音符を2分音符2つに分割します。
この場合は下拍に合わせて「テー」、上拍に合わせても「テー」と発音することになります。このように2分音符で進む場合、下拍で始まる音符を表、上拍で始まる音符を裏と呼びます。こう書くと、表と裏で何が違うのだろう?と疑問を持たれるかもしれませんが、この段階では、音にもタイミングにも違いはなく、むしろ表も裏も均等と考えておいてよく、練習するときにも出来るだけ表裏の差がつかないようにするのが良いです。表と裏は拍に対しての位置関係を示しているだけの言葉です。曲を演奏するときに、拍との位置関係で何かが違って来るのかどうかは、曲想にもよるので、演奏経験を積むことで感覚的にわかって来るのですが、その辺りを言葉で説明するのは大変困難です。今は、表裏という言い方をするということだけ知っておいていただければ良いです。楽譜2を演奏するのもランディさんにとってなかなか難しかったようです。これももう少し進んでから戻って来ることにしましょう。
さらに2分割すると4分音符になります。
この4分音符の連続では、下拍、上拍に乗っている音符(小節の1個目と3個目)が表で、その間を2等分する位置の音符が裏です。表と裏は、拍との関係で、拍の上が表、拍の上に来ないのが裏です。ただ、ここでも表も裏も音の出し方には差がないと考えてください。練習としては、等間隔で均一な音を続けることを目標にするのが良いです。ここまで来るとランディさんにとってもやり易くなって来たようです。4分音符単位の拍で1、2、3、4と数えていくのが4分の4拍子で、そのように拍を感じる方が、大きな拍を分割するより最初はわかりやすいのでしょう。ただ、1+1+1+1のようなイメージで細かい拍が連続する感じ方だと曲の流れが悪くなることもしばしばなので、いろいろな曲を演奏しながら大きな拍の動きに乗る感覚も掴んでいただけるといいです。その辺りは、もっと進んだところでの課題ですね。
さらに2分割で8分音符です。音符が細かくなって来ると音符の棒に旗が付いて、連続する場合は2小節目、3小節目のように見やすいように旗をつなげて横棒にします。連桁(れんこう)といいますが、見やすくするという以上の意味はありません。
この場合、拍の上に来る音符を表として、交互に表裏が来るという風になります。今はただ、拍との位置関係を表裏と呼んで表すと理解しておいてください。音の連続がだいぶ速くなってきますが、ムラなく均等になることを目標に練習します。もちろん、実際に曲を演奏するときには、同じ音価(8分音符なら8分音符)の音符が並ぶときでも曲想に応じて様々な差が生じます。第1回の「ほたるこい」でも「あーまいぞ」に対して「テーテデテ」というようなつもりの微妙な差が自然な流れを作るというような話をしたのですが、そのような微妙な差をコントロールできるようになるためにも、均等さを目標に基礎練習することも必要になるわけです。こんな風に、いきなり高度なことを書き始めてしまいましたが、今は、ほどほどでも大丈夫です。
ここまで、表と裏ということを何度も書いてきましたが、楽譜を読むとき、各音符が拍に対してどういう位置関係かというのを認識するのは、とても重要です。単音での基本練習としては、音の出し方自体には差がなく均一を目指すのが良いのですが、これが曲になってくると、同じ音価の音符でも曲想に応じて大きく変化します。それは曲を練習しながら体験していただくこととして、今は、表裏という呼び方だけ掴んでいただけると良いです。
さて、次は16分音符となるところですが、最初に「例えば全音符1個が2秒間(つまり下上下上が1秒間隔)ぐらいでどうでしょう?」と書いたテンポ(メトロノームだと2分音符が60ぐらい)だと、16分音符はものすごく速いので、今は全然できなくて構いません。しばらくは16分音符の出てこない曲ばかり練習していただく予定ですし、16分音符を登場させるにしてもテンポがもっとゆっくりな場合のみになると思います。なので、ここには楽譜は載せませんが、動画中、ランディさんが「やってみたい!」とのことで、やっていただきました。すると、なんと!すごい速さでタンギングされて驚きでした。こういう風に速く舌を動かせる人は、速いテンポの曲に取り組むときの壁が低くなるのでラッキーです。とはいえ、曲を吹くときに大事なのは速さではなく、タンギングによって言葉を喋るような表現をすることなので、それはゆっくりなテンポから少しずつ身についていきましょう。ちなみに、僕は初心者だった中学生の頃、速いタンギングは全然できませんでした。それでもずっとやっていると、少しずつ速いタンギングもできるようになって来たので、お読みの皆さまも、最初は舌を速く動かせなくても全然心配いりません。
さて、基本中の基本について書いていくうちに、だいぶ高度な話になってしまいました。ピンとこないこともたくさんあるでしょうが、初心者の方は斜め読みで構いません。次のレッスン動画、20分ありますが、よろしければご覧ください。ざっと途中の時間を書いておきます。
0'15"ぐらいから: Cという拍子記号の説明など
2'50"ぐらいから: 拍の取り方の説明や1段目(全音符)の練習
12'15"ぐらいから: 2段目(2分音符)の練習
15'00"ぐらいから: 3段目(4分音符)の練習
16'58"ぐらいから: 4段目(8分音符)以降の練習
5 曲を吹きましょう
基礎的なことのみでだいぶ時間を使ってしまいましたので、残り時間で、第1回にお渡しした楽譜から、ご自分で練習されたものを聴かせていただきました。ここで使った楽譜へのダウンロードリンクはすでに載せましたが、改めてここにも載せておきます。
以下の動画は、吹き方や楽譜の読み方について新しいことをお伝えするというより、練習された曲を聴かせていただくいたというものなので、15分ありますが、お読みの皆さまも一緒にランディさんの演奏をお聴きいただくということでよいかと思います。ランディさんは、まだ楽譜に書かれた音符とアルトリコーダーで出すべき音の対応がついていないご様子で、曲の最初の音が違ったまま試行錯誤的に吹いたりされていました。それでもその音から始めて知っている旋律を吹いて行かれることが驚きでした。これまでも娘さんが学校でお使いになっていたリコーダーをときどき吹いていらしたとのことなので、楽譜がなくてもいろいろな旋律を吹くことに慣れていらっしゃるのでしょう。そういう意味では全く初心者ではなく、お渡しした楽譜にある曲を十分楽しんでいらっしゃるようにお見受けしました。途中の時間は、1'42"ぐらいから「蛍の光」の最初の音を確認して練習開始、6'58"ぐらいから「見よ、勇者は帰る」の最初の音を確認して練習開始という様子です。
ランディさんの凄いところは、最初の音が何かわかれば、知っている旋律なら勘で吹き進められるというところです。おそらく楽譜の読み方も、音符が上の位置に上がると音も上に、下の位置に下がれば音も下にという相対的な読み方が出来ているのだと思います。知っている運指であれば、どのぐらい上がるか、どのぐらい下がるかの勘を働かせて旋律を探り当てることができているのだと思います。その一方で、音符がこの位置にあれば何の音でどんな運指になるのかを読み取ることについては、まだなかなか慣れないご様子です。ソプラノ運指の方には馴染んでいらっしゃるようで、かえって、この音はソプラノでは何の音に当たるという風に考えながら楽譜を読むことで回り道になっている様子も伺えます。これから、知らない曲も楽譜を読むことで吹けるようになるということを目指していただきますので、その過程で慣れて行かれると良いです。
それと、ランディさんの良いところは、多少できないところがあっても「まだ始めたばかりなんだから、このぐらいできれば十分ですよね!」というポジティブさです。楽しく練習を進めて行くには、外からの評価ではなく、自分としての良い面を見るということも不可欠ですね。大いに見習うことにしましょう。
人によって得手不得手はあり、ランディさんのように勘を働かせて吹くのは難しいと感じる方も少なくないでしょう。そういう方も知らない曲を楽譜から吹くというのは得意になる可能性は高いですし、そうなるようにこの連載も進めていくつもりです。
6 次回に向けて
さて、知らない曲を楽譜から読み取るというのを目標として進めて行きたいところではあるのですが、最初の段階では、それぞれの方のお気に入りの曲で無理なく吹けそうなものがあれば、それが吹けるようになることをまずは目指すのも良いです。Facebookでやりとりしているうちに、ランディさんが「モンセラートの朱い本」にあるStella splendens(輝ける星)がお好きだということを知りました。それがどんな曲なのか全然知らないという人の方が圧倒的に多いかと思うのですが、ランディさん向けということで、次回のレッスンはそれをやっていただくことにしました。アルトリコーダーで吹きやすい音の高さにすれば、難易度は「見よ、勇者は帰る」と同程度かむしろ易しいぐらいです。ランディさんにお渡しした楽譜はこのファイルです。2声部の曲なのですが、とりあえずは上の声部のみをお渡ししました。
「モンセラートの朱(あか)い本」とは、スペインのカタロニア地方バルセロナに近いモンセラート修道院に伝わる写本で、その中に巡礼者たちが歌い踊っていた10曲の楽譜が収められています。Stella splendens(輝ける星)は、その中の2曲目です。歌詞もラテン語ですし、ほとんどの方には馴染みがないかもしれませんが、youtubeなどで「Stella splendens」を検索すればいろいろな演奏が聴けると思います。次回のレッスンは、それに挑戦していただくことにして、第2回レッスンの最後は、それに向けての予習のようなことをやっていただきました。7分弱のレッスン動画をどうぞご覧ください。
楽譜の画面のままにしていたので、動画では見にくいかもしれませんが、4'47"あたりから僕が取り出している楽器は、この写真のものです。
リコーダー製作家の斉藤文誉(ふみたか)氏が、30年ぐらい前に作った楽器で、1400年頃のリコーダーの想像的な復元です。右手薬指と小指の距離が離れているので、この楽器で最低音を出すのは僕にとっても結構大変です。ただ、この頃の楽器は破損したものが少し残っているだけなので、これは計測データに基づいた復元ではないそうです。斉藤氏は、現在はさらに研究を進めて、最新の仮説に基づいて復元した楽器も作っています(僕も注文中です)。モンセラートの朱い本は1399年あたりということなので、リコーダーでやる場合はこういうタイプが使われていたと考えられます。現在一般的な頭部管、中部管、足部管の3つに分かれて、上部が太く下部が細い(円錐管)の楽器が発明されたのは1670年代と考えられていますが、その前は継ぎ目のない一本管で全体的にほぼ円柱の楽器が使われていたのです。
さて、実は、その第3回レッスンも完了しています。それも遠隔レッスンではなく、僕が湯河原のランディさんスタジオにお伺いして、2重奏をやりながらのレッスンになりました。ちょうど湯河原にお住いの他の方々からもレッスンご依頼いただいたので、僕の方が湯河原に行くことにしたのです。記事の公開も遅くならないうちにと思っています。どうぞお楽しみに!
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