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霊感を信じないママが経営するスナック【スナックに通う男・町田亮平の話】


僕こと町田亮平は大学を卒業してから、代々続く老舗の不動産屋【土間居不動産】に就職した。

親や親友からは、もっと良い企業に就職出来だろう?と呆れられたが・・・
それは他人の価値観で僕は僕の進みたい道を選んだ。

【土間居不動産】に就職した理由はただ一つ。

この街中で取扱いの難しい事故物件を自社買取している数少ない不動産屋だ。
社長が先々代から受け継いだ歴史ある建造物だが表向きに出来ない物件も含まれる。
幽霊話が絶えない遊郭跡地から最近の事件現場になったアパートまで誰も欲しがらないような物件や土地を社長が一気に引き受けこの不動産屋で取り扱っていた。

社長曰く『どんな物件も磨けば価値がある』と

僕は大学時代から小説家になることを夢みて「横溝正史ミステリ&ホラー大賞」に作品を出していたが受賞することはもちろん、かすりもしなかった。
大学時代の先輩に
『あなたの小説って薄いわよね。今まで裕福で悩みなく幸せに暮らしてました~って感じ。盛り上がりが見当たらないのよ』
と鼻で笑われながら嫌みを言われた。

それ以来、何を書いても真実味の無い薄っぺらい内容しか書けないように思えてムシャクシャし小説を書くのを止めた。

確かに僕の人生は何もかもが足りない。

普通・・・平凡・・・僕の大嫌いな言葉。

そんな時、【土間居不動産】の社員募集広告を見つけた。

事故物件で日常的に霊体験を繰り返せばリアリティーのある面白い作品が書けるのでは・・・
『リアリティがこそが最高のエンターテイメント』だとあの岸辺露伴先生も言っている。

そんな理由だけで不動産屋に就職したのだ。

だが、現実は違った。
孤独死したアパートも首吊りしたマンションも一家心中した一軒家も、全く霊は出てこない。
ポルターガイストも無い。ラップ音も無い。
霊なんて本当は存在しない。
やはり、僕には何も無い。

社長に頼み込んで事故物件に住んでいるがただただ平和な日常を過ごしていた。

社長に誉められる
『君が事故物件に住んで何も出ないことを証明してくれるから助かるよ』

・・・売り上げに貢献しているらしいが心底嬉しくない。

望まない『安定した平和な日常』をただただ過ごしている。

ある時、雨宿りがてら入った駅近くの雑居ビル一階にあるスナック。
昭和を彷彿させる場末た外観に、紫ネオンの看板照明に明朝体フォントの『さゆみ』の文字。
だが、店内は打ちっぱなしのコンクリート壁に無垢一枚板のカウンターテーブルというシンプルさでお洒落なカフェといった感じだ。
酒以外にも珈琲や紅茶もタピオカも出すらしい。

ママは『時代の流れよ~!ここはなんでも出すわっ🖤』とウィンクした。

そのママが語る話は僕が求めていたものだった。

始めて店に入った時の話は、『青白い人』
ママが会話した青白い人は2駅先のアパートで起きた殺人事件の犯人だった。
男のDVからやっと逃げた奥さんだったが、役場の手違いで男に居場所を特定された。
匿っていた弟を奥さんの浮気相手と思い込み、愛している奥さんを返して欲しかったと。

どんな姿になっても。

男は奥さんと逃げる途中にスナックへ寄った。
ママが何を見たのかわからないが女性を連れていたと話していた。
実際は鞄の中に『奥さんの一部』を入れて持ち歩いていたのだ。
男はスナックを出た後に警察へ出頭し逮捕された。
奥さんと一緒に。

あの後ママも警察にいろいろ聞かれたと言っていたけど、あの事件はママが解決に導いたのだと僕は思う。

あのスナックは彼岸と此岸 の狭間にあるのだと僕は思っている。
だから、心が揺らいだ人間が吸い寄せられる。

なら、あのママは何者だろう?

本人は強く否定する

『私は、霊感なんて無いわよ~』と笑いながら。

僕は目の前に一筋の光が見えたような、そんな感覚を覚えた。
もしかしたら、面白い小説が書けるかもしれない。


ママの話を聞くために今日もあのスナックへ行く。





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