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まろんの特等席になった壊れた椅子

 うちには少し古びた椅子があります。もともとは家族が座るためのものだったのですが、いつの間にかスプリングが壊れ、座るとごわごわとした感触に加えて、妙な位置がへこんでしまうようになりました。ほとんど和室で過ごす我が家では椅子は少し珍しい存在だったため、最初はみんなで座ることもありましたが、壊れてからは自然と誰も使わなくなり、椅子は家の片隅で静かに居場所を失ったかのように見えました。
 ところが、それを見つけたのがまろんです。子猫のころは高さのある椅子に上ることはなかったのですが、少しずつ体が大きくなり、ジャンプ力がついたころ、気が付けば椅子の上でくつろぐ姿がありました。特に天気の良い日には、縁側に近い場所に置いてあるその椅子がまろんの特等席になりました。ぽかぽかの日差しを受けながら、椅子の上で丸くなったり、外の景色を眺めたりしている様子を見ると、「この椅子はまろんにとって欠かせないんだな」と感じます。 
 家族の誰も座ることがなくなった椅子ですが、まろんが使うようになってからは、まるで再び役目を果たしているかのようです。壊れていても、誰も「捨てよう」とは言いません。椅子はまろんの大事なスペースとして、今でもしっかりその場に居続けています。
 壊れてしまったけれど、まろんにとっては最高の特等席。だからきっと、この椅子はこれからも捨てられることなく、家の片隅でそのままあり続けるのでしょう。

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