見出し画像

小沢健二「LIFE再現ライブ」について。

「LIFE」が出た1994年、僕は社会人一年生で、必ずしも希望ではない会社員生活を始めたところだった。その頃から小説を書くことが僕の夢だったのだけど、夢の実現には30年もかかってしまった。僕の初めての小説が出た2024年、小沢健二は30周年を記念する「LIFE再現ライブ」を日本武道館で開催した。

……ってなんかね。そんなふうに、自分ごとに引き付けて考えてしまうよね。別に、何の関係もないのだけどね。
でもやっぱり、30年というのはそれだけの重みのある、誰もが自分ごとを連想せずにいられない時間で。
30年前の「LIFE」と、今回の「LIFE再現ライブ」と、自分の歩んできた道程を重ね合わせてしまう人は、たくさんいると思うのですよね。

1994年頃、オザケンは「渋谷系の王子様」キャラで、テレビでダウンタウンと絡んで業界の最前戦でキラキラ脚光を浴びていた。今思えば、それもある種の「韜晦」だったと思うのだけど。
僕はと言えば人付き合いの苦手なインキャな(当時で言えばネクラな)若者で、そんな生き方とは対極に位置していたから、むしろ「ケッ」と思ったりしてそうなのだけど。
キラキラした「LIFE」はそんなこと関係なくどっぷりハマって、繰り返し聴いていました。
それはやっぱり、曲の良さ。歌詞の良さ。
キラキラしても隠し切れない、一曲ごとに込められたシリアスな感情が、当時の僕の心をがっちり掴んだ。そういうことなのだと思います。

今回のライブは録音当時のメンバーを集めて、CDの通りの「LIFE」を今のライブで再現しようという試みです。
実際、見事に「再現」されていたのですが。
再現された結果ダイレクトにぶつかって来たのは表面的なキラキラではなくて、当時感じた「シリアスな感情」でした。
「懐かしの」とか、そういう感じでは全然なくてね。当時うっすらと感じていた曲に込められたシリアスな感情が、むしろより分かりやすい形で、今の自分にブッ刺さってきたのでした。

MCの中で小沢さんも「ラブリーは落ち込んでいる時に作った」「LIFEは寂しいアルバム」という意味のことを言っていたのですが。
あらためて強く感じたのは、「LIFE」って喪失のアルバムだと思う…ということ。
恋愛や遊びの時間が楽しくても、楽しければ楽しいほど、それはやがて終わって、過去になって、消えていくのだな…と思う感覚。
今会っている人とも、いずれ会わなくなって。
永遠に続くように思える楽しい時間も、いずれ終わって。
消えてしまって、二度と戻らないものになっていく。

それは当たり前のことなんですけどね。
でも、当たり前だからこそ普遍的であって。

“けどそんな時は過ぎて
大人になりずいぶん経つ”
“僕らは何処へ行くのだろうかと
何度も口に出してみたり”

「愛し愛されて生きるのさ」

“やがて僕らが過ごした時間や
呼び交わしあった名前など
いつか遠くへ飛び去る”

「いちょう並木のセレナーデ」

30年前に、二十代の小沢さんがこれを書いてるのが凄いと思うし、それは当時の、まだ失うことなんて考えもしなかった若い自分にも確かに響いたのです。
30年が経って歳を重ねて、失うことをリアルな経験として知った今、そんな言葉はよりリアルさを増していて。

年月が経って誰しも避けられないこととして、大切な人を失う、弔う……ということも必ずあるじゃないですか。
今回の再現ライブでも、当時の人たちを集めるということは、その中に「今はいない人」がいてしまう。“追悼”の意味も、否応なく浮かび上がってきます。
小沢さんや演奏者たちのそこにいない人への追悼の思い、我々の側の、身近な誰かへの追悼の思い。それも重なってきてしまう。

“ぼくらの住むこの世界では旅に出る理由があり
誰もみな手を振ってはしばし別れる”

「ぼくらが旅に出る理由」

……なんていう言葉も、また別の切実な意味を帯びて響きます。
そして、

“そして毎日は続いてく
丘を越えぼくたちは歩く
美しい星に訪れた夕暮れ時の瞬間
せつなくてせつなくて胸が痛むほど”

「ぼくらが旅に出る理由」

という言葉が、その先に続いているんですよね。これが「LIFE」の、そして小沢健二の凄さの真髄だと思うのですが。

時は過ぎてしまう。大切な時も、やがて消えて飛び去ってしまう。
生きていくとはそういうこと。
でもその一方で、永遠に続くように思える美しい瞬間は確かにあって。
やがて消えるからこそ、通り雨がコンクリートを染めていく瞬間も、ダンスフロアに華やかな光が満ちる瞬間も、美しい星に訪れた夕暮れ時の瞬間も、みんな美しくて、かけがえがない。
この瞬間はいつまでも続く!と強く思える、そんな刹那が確かにある。
そんな美しさを抱きしめて、僕らは日々を生きていく。それがLIFEである、ということ。

30年を経てパズルのピースがドンピシャはまった、そんな爽快感のようなものも感じさせてくれたのでした。
小沢さんのMCで、「LIFEとは、生きているものの持っている特徴を支える力」という言葉があったのだけど。
「力」なんですよね。LIFEは力。生きるために必要な力があって、そのことについて30年前も今も歌っている。
だから古びない。「懐かしの」にならない。

本当に、力をもらえるのでね。
今あらためて、世代の違う人たちにも「LIFE」が聴かれて欲しいなあと思います。

↑「LIFE」アナログレコードが新譜として再発されています。

↑冒頭で触れた「30年目に出た小説」です。ホラーですが!よければ読んでみて!


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?