苦労噺⑦ 段ボールにまつわるエトセトラ
シェアハウスには宅配ボックスがなかった。
そのことをうっかり忘れて新生活のためのネットショッピングをした。
いくつかの箱に分かれて届いたのだが、なかなか受け取れない。
その間、何枚かの不在届をスーパー氏が受け取ってくれた。
仕事の都合を何とか合わせ、ようやく受け取ったときには机の上に荷物がそれなりの量並んでいた。
ひとつひとつ開けていると、スーパーの仕事から帰ってきたスーパー氏が微妙な表情をして
「ネットでのお買い物が上手なんだね」
という。ネットで買い物をするのは普通なのではないかと思ったが、とりあえず適当に話を流した。ただ、その微妙な表情が気になった。
そのあとは荷物をしまい、入れ物だった段ボールを所定の位置に置いた。
ごみ捨ては当番制で、収集車が来る日にその週の当番が所定の位置に収められたごみを出すのだ。
シェアハウスには収納が少なかった。
一人暮らしの家は荷物が多かったため、半分程度に減らしたとしてもまだシェアハウスの収納に収めるのは難しく、段ボールがいくつか残っていた。
ひと月ほどで片づけてくれればいいよ、と介護士氏が言っていたので、のんびり片付けていた。
私は仕事の都合で週に数日いない日がある。その日に事件が起きた。
数日ぶりに家に帰ると、リビングでスーパー氏が仁王立ちになっていた。
「ゴキブリがでたの」
という。
「あなた(私は会社で事務仕事をしているので、以降名前を呼ばれたときは事務と記載する)が来るまではこんなことなかったの。その日は窓が開けっぱなしだったし、事務さんのせいじゃないかもしれない。責めるわけじゃないけど、でも段ボールにゴキブリが棲みつくことがあるっていうし……」
「ああ、それはすみません。片づけますね」
「ほんと、事務さんのせいじゃないかもしれないけど、今までなかったことだから。片づけてね」
スーパー氏は不機嫌そうであった。
引っ越し用の荷物には新品の段ボールを用いていたから、引っ越して数日やそこらで段ボールに棲みついたゴキブリ(の卵と思われる)が大きくなるわけもない。おそらく開いた窓から侵入したものと思われるが、言い返すのも図々しいかと思い段ボールを片付けるスピードを速めた。
宅急便の分と合わせてそれなりの量の段ボールが出たので、さすがにこれは申し訳ないと思い、自分で捨てようと考えていたところ、
「たくさん片づけたんだね、偉いね。でもこんなに段ボールがたくさんあるとごみ出し当番の人がどう思うか想像できる?自分で捨てなきゃだめだよ」
とスーパー氏が声をかけてきた。若干の説教臭さにうへえとなりながらもそのつもりだと返した。
そして段ボールを捨てる日、いつもはその時間帯にいないスーパー氏が段ボールのそばに座ってこちらを見ていた。私は黙って段ボールを捨てに行った。見張っているとしか思えなかった。
このころから私はスーパー氏が苦手になってきていた。