あきなり

山あり谷あり綱渡り、人生

あきなり

山あり谷あり綱渡り、人生

マガジン

  • あきなりの短編集

    短編をまとめています。のんびり増量中。

  • 苦労噺

    諸事情によりちょっと休憩中。

  • 小説の補遺

  • 怠惰な人間のライフハック事例

最近の記事

短編|体内時計

「ほらほら、起きて!全く、何年たったら自分で起きられるようになるの!休日だからって気を抜かないで!」 姉の不機嫌な声と、体を揺さぶられる感覚。目をうっすら開けると、窓の外から陽光が差し込んでいる。昼だ。 「おはよう……」 私はもごもごと返答した。起きるのは苦手だ。頭がぼんやりしている。体がだるく、重い。特に胃のあたりにずしりとした重みを感じる。布団から這い出るようにして抜け出て、冷たいフローリングの床に転がる。 「床で寝ないで!脂が付いたら掃除が大変なんだから」 「

    • 短編|春の蝶、ある思想家の夢

      仕事を終えて帰ると、いつものように彼が食事を用意してくれていた。シチューの甘くて温かい香りが部屋中に広がっている。 「おかえり、今ちょうどできたところだよ」 「やった、シチュー食べたいなって思ってたの」 上着を脱いでカバンを床に置くと、私は配膳の手伝いを始めた。 「いつもありがとう。おかげで帰ってくるのが楽しみ」 「いいのいいの。お仕事お疲れ様」 彼がニカっと笑う。帰りが遅くなりがちな私のために、早く帰る彼はいつも食事を用意しておいてくれる。帰りに家で待っていてくれる

      • 苦労噺⑧ きみは完璧で究極の

        ある朝、早起きをした私はリビングでまったりしていた。 しばらくして、スーパー氏が降りてきた。 挨拶をすると、スーパー氏はわたしの隣に座った。そして持っていた本をテーブルに置き、パソコンを開いてオンラインミーティングを始めた。彼女はいつも朝に友人らと何らかの集会を開いているようだった。 単純に早起きができるのと、定期的に人と話す機会を作っていることは素敵だなと思っていたが、今までその姿を見たことはなかった。 私は特に気にもとめず、スマホをいじっていた。スーパー氏は初め黙って会議

        • 短編集の補遺(2024/11/22更新)

          短編集についてのメモです。 適宜書き足していきます。 体内時計 春の蝶と同じく学生の頃の実験で被験者として書いたもの。「時計」がテーマ。 うまく表現できなかったのでいつかリトライしたい。 朝弱いので助かりたいです。 春の蝶、ある思想家の夢 学生の頃に心理学系の実験に参加し書いたもの。 「夢」をテーマに意外性を入れた短編を書いてください、という課題がでたので執筆。 非常に典型的な胡蝶の夢の話です。 Forget me not パスポートを家の中で無くしたときに「もの

        マガジン

        • あきなりの短編集
          5本
        • 苦労噺
          8本
        • 小説の補遺
          1本
        • 怠惰な人間のライフハック事例
          3本

        記事

          たとえそれが銀だとしても track1

          「沈黙は銀で雄弁は金だ」 「いや、逆だろ」 沈黙は金で雄弁は銀だ。そして佐藤はうるさい奴だ。 「だって黙ってたら何考えてっかわからないじゃん」 「あえてそうすべき時もあるよっていうことを伝えたいんだろ。というかなんで急に格言が出てくるんだ」 「ユキってあんま喋んないじゃん?冷てぇなって」 「僕は普通に喋るけど。佐藤が暑苦しいんだよ」 中身のないやり取りをしながら、佐藤と僕は軽音部の部室でソファの上で溶けかかっていた。 季節は夏の終わり、まだまだ残暑が厳しいけれどうだるよ

          たとえそれが銀だとしても track1

          怠惰な人間のライフハック事例 | 家事地獄脱出編 猫の手も借りてみよう

          あなたは見栄っ張りですか。 今回はいきなり家事の記事、しかも余談編である。 前回の続きももちろんあるけれど、思いついたときに書いておかないと忘れちゃうのである。 怠惰なくせに見栄っ張りというひねくれ者の私がライフハックを見つけ始める前、一時的に生活が普通の人レベルになったことがある。 魔法が起こったのは大学生の時だった。 見栄っ張りの皆様は多分共感してくれると思うのだが、なるべく人前ではしっかりした人でいたい。だめ人間は押入れの奥に押し込めてきちんとした人になろうとする。

          怠惰な人間のライフハック事例 | 家事地獄脱出編 猫の手も借りてみよう

          怠惰な人間のライフハック事例 | 動きたくない時のサバイバル法 体調管理編 1

          今回から本格的にわたしなりのライフハックなどを書いていく。あくまでわたしのライフハックで、医学的根拠はないので注意されたし。 動きたくない時のサバイバル法とあるが、これはコンクリートジャングルでサバイバルをする時の話である。 人にはそれぞれ向き・不向きもあるし、置かれた環境も違うので効果の再現性は保証できない。あくまで数ある手札のうちの一つの候補としてお読みいただければ幸いである。 さて、初回は体調管理について、もっと言えば自分の状態を把握することに関してフォーカスして書

          怠惰な人間のライフハック事例 | 動きたくない時のサバイバル法 体調管理編 1

          短編|Forget me not

          ああ、パスポートの作り直しをせねば。花が発いてしまった。 薄暗い部屋の奥、灰やほこりにまみれた机の上でやっと見つけたパスポートから植物の茎が生え、先端に花が咲いていた。スタンプのインクの色を吸って、何とも言えないグレーの色になっている。 私はパスポートを大切にしていた。なくすと不安になり、手が震えた。いつも肌身離さず持ち歩いていた。いつかこんな場所脱出してどこか遠い国へ行くんだ。いつか映画で見たような凪いだ海の見える小さな白塗りの壁の家に暮らすんだ。のんびり洗濯物を干しながら

          短編|Forget me not

          苦労噺⑦ 段ボールにまつわるエトセトラ 

          シェアハウスには宅配ボックスがなかった。 そのことをうっかり忘れて新生活のためのネットショッピングをした。 いくつかの箱に分かれて届いたのだが、なかなか受け取れない。 その間、何枚かの不在届をスーパー氏が受け取ってくれた。 仕事の都合を何とか合わせ、ようやく受け取ったときには机の上に荷物がそれなりの量並んでいた。 ひとつひとつ開けていると、スーパーの仕事から帰ってきたスーパー氏が微妙な表情をして 「ネットでのお買い物が上手なんだね」 という。ネットで買い物をするのは普通なの

          苦労噺⑦ 段ボールにまつわるエトセトラ 

          苦労噺⑥ 完璧な一日

          3日目、私は完璧な一日を過ごした。 比較的早起きして明るくなってきた部屋で資格勉強をした。スーパー氏はもう起きてどこかに言っているようだった。 勉強がひと段落すると、朝ごはんの買い出しに行った。朝の散歩にちょうど良いくらいの距離にコンビニがある。 ヨーグルトなどを帰ってリビングへ行くと、スーパー氏と個室Aの住民(ビールが好きなのでビール氏とする)がヨガをしていた。実に健康的である。私も少し参加させてもらい、久々に丁寧に体を動かした。 日が当たるリビングでのんびりと食事をし両

          苦労噺⑥ 完璧な一日

          苦労噺⑤ 小休憩

          本格的な話に入る前に、シェアハウスのつくりについて簡単にまとめておこうと思う。 私の住むシェアハウスは3階建てで、1階にキッチンやシャワールーム、リビングといった共用部がある。 2,3階は居住用スペースで、1つのドミトリールームと複数の個室がある。 介護士氏、スーパー氏、販売氏、私はドミトリー組である。 共用部リビングにはテレビと疲れ切って皮の破れたソファが置いてある。 特にドミトリーの住民などはこの場所で食事をすることが多い。 また、早朝にはスーパー氏がソファで読書をし

          苦労噺⑤ 小休憩

          苦労噺④

          介護士氏と別れたのち、引っ越しの準備が終わっていなかった私は一度家に戻った。 そして次の日、私はまたシェアハウスに帰ってきた。 すると今度は別の住民たちがリビングで食事をしていた。 挨拶をすると彼らは酒を私に勧め、話を始めた。 「私たちはここでいろんなものをシェアして暮らしているの」 と一人が言った。この住民のことをスーパー氏と呼ぼう。スーパー氏はスーパーでアルバイトをする傍ら、個人事業主をしていた。 スーパー氏は自分で作ったと思われる食事を頬張りつつ、一緒にいた住民とに

          短編 | 知らない人の墓参り

          9月のおしまいの日に、私は知らない人の墓へ行く。 ついぞさよならをできなかった、またねの約束が叶わなかった冷たい人の墓へ行く。 彼は不思議な人であった。 大変思慮深く聡明で、茶目っ気のある人であった。 だがその一方で非常に繊細で不器用な一面を持っていた。 我々は学生の頃に出会った。 たまたまサークルが一緒であり、気が合う面があったためそれなりに仲良くしていた。サークル活動の一環で休日に行動を共にすることもあった。 当時の私は少々偏屈な人間で、人間嫌いでありコミュニケーシ

          短編 | 知らない人の墓参り

          怠惰な人間のライフハック事例 | はじめまして編

          わたしは根が怠惰な人間であると自負している。根から葉、花にいたるまで怠惰の色に染め上げられている。呼吸すら面倒なことがある。布団の中にいるものは幸いである。外界の煩わしさから逃れられるからだ。 思えば中学1年生の時一番初めに覚えた単語は lazy であった。 今思えばまたマニアックな、とは思うが教材の絵本の中にあった単語である。まさに運命の出会い。 そんなタイプの人間がどのように人生の荒波をサバイブしてきたのか? わたしと同じ怠惰なあなた、他の人の人生を覗いてみたい方など

          怠惰な人間のライフハック事例 | はじめまして編

          苦労噺③

          前回の話はリンクから。 リビングの扉を開けると、住民の一人がソファでくつろいでいた。 挨拶をすると、住民も挨拶を返してくれたので少し話をした。 聞くと、住民は介護施設で働いており、この家には3年ほど住んでいるという。便宜上、以後この住民のことは介護士氏と呼ぶ。 介護士氏曰く、この家はルールをなかなか守ってくれない住民が多いらしい。介護士氏も手を焼いているのだという。 シェアハウスは家によりまちまちだがハウスルールというものが存在する。見知らぬ人間たちが集まって住むにあ

          苦労噺②

          さて、前回も書いた通り私はシェアハウス暮らしに慣れている。学生の頃2年ほど別のシェアハウスに住んでいたのだ。例によって金欠だったのである。 そのシェアハウスは大体20人ほどが住む中規模のハウスで、私を含む数名が学生であった。 私が住んでいたのはドミトリーであり、一部屋に8名ほどが住んでいたと思う。カプセルホテルのように上下2段に限られており、それが4列ほどあった。 それぞれに与えられた区画は1畳程度であり、立ち上がることもできない程度の高さしかなかったが、作りが丁寧で、個人